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Get your GOD off

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 盤上ではまだせめぎ合いが続いている。いつの間にか状況は黒に――元々はスザクが使っていた側に――有利になっていた。それがまるで魔法のように思え、スザクはただ感心してチェスボードを見つめるばかりだ。
 現在スザクに代わって打ち手となったルルーシュは、本を片手に涼しげな態度を崩していない。彼の頭の中身は一体どうなっているのか、と怪訝に思うほどに、彼はチェスの勝負に注意を払わなかった。
「残り六手だな。降参しただどうだ、リヴァル」
「まだまだ! 何か手があるはずなんだ」
 半ば頭を抱えるようにしてリヴァル・カルデモンドは机の上の駒を食い入るように見つめている。そしてややあって顔を上げると、ルールブックを片手にすっかり傍観に回ったスザクを恨めしげに睨んだ。
「そもそもずるいぞスザク! ルルーシュに代打ちを頼むなんて」
「お前が挑発するようなことを言うからだろ?」
 やはり本から顔を上げぬままに、ルルーシュが答えた。すでに持ち時間を使い果たしたリヴァルの提案により、対局時計は既にその役目を終え、勝負は持久戦に突入していた。
 天井が高く、窓の多い生徒会室には柔らかな日差しが天井から差し込んでおり、午後の暖かな空気が辺りを包んでいる。ぼんやりと天井、壁、そして机へ視線を巡らせると、後ろから扉の開く音と、そして女生徒の声が聞こえた。軽い足音が3人の方へ近づいてくる。
「なあに、また無謀な勝負を挑んでるの?」
 振り返れば、そこにミレイ・アッシュフォードの姿があった。肩に届かない金髪を揺らし、体を乗り出して彼女は机の上の盤を覗き込む。
「あら珍しい、結構いい勝負じゃない」
「最初はスザクが打っていたんですよ」
 心外だ、というようにルルーシュが返せば、ミレイは片手を細い顎に当てて納得したように頷いた。
「ははーん、それでスザク君がピンチに陥って、ルルーシュが代打ちしてるわけね」
「まあ、そんなところです」
「どうせ負けるんだから、適当なところで諦めなさいよ。まだ文化祭の準備も残ってるんだし」
「会長~」
 リヴァルの情けない声にミレイは一つ肩を竦めた。制服のくびれた腰に両手を当てて、高い位置から彼らを見下ろすと、わざとらしく目を細めて笑った。
「人間何事も引き際を見極めることが大事でしょ。負ける勝負をわざわざすることはないと思うけど」
「それ、リヴァルにもっと言ってやってください」
 ルルーシュは一瞬だけ顔を上げてあっさり同意する。先ほどから彼は姿勢を変えず、肘掛けに頬杖を付き、もう片方の手に持った本を読んでいた。そのまま時たま顔を上げて盤を見ては、何気ない様子で駒を動かす。確かにその態度を見ただけで、最初から勝敗はわかりきっていた。
 スザクがチェス盤を振り返れば、ようやく諦めたようにリヴァルが次の手を打っていた。ちらり、とやる気のない様子でルルーシュが顔を上げ、制服に包まれた細い腕で再び黒のクイーンをつかむ。
「もういい加減、諦めないか」
「嫌だね」
 延々と繰り返されている二人の遣り取りに呆れた、と呟いて、ミレイは手に持っていた書類を丸めて掌に当て、大きな音を立てた。
「会長命令よ! 三十分以内に切り上げて各自割り当てられた作業に戻ること。いいわね?」
「はい」
 その言葉に素直に返事をしたのはスザクのみだった。ルルーシュは黙って肩を竦め、リヴァルのいる位置からは地を這うような低いうなり声が漏れている。
「スザク君、いい返事ね」
 満足そうなミレイに、つい姿勢を正してスザクは対峙した。本を机の上におろし、椅子から立ち上がる。直立すれば、その様子を面白そうに彼女は眺めていた。
「上官の命令は絶対、ですから」
「その通り、すばらしい! じゃあ引き続きそこの不毛な二人の監視をよろしくね」
「イエス、マイロード」
 冗談めかした彼女の台詞に合わせ、やはりふざけた調子でスザクは答えた。

作品名:Get your GOD off 作家名:名村圭