地にありて
「花は人を癒すために咲く。」ボソッと言われてさっさと行ってしまう。
「…ありがとうございます。」ありがたくもらって部屋に帰って小さな花瓶を探して窓際に飾る。
形や香り存在そのもの。ほっとする。癒しか…。
お互い癒しにはなってないかな…。では何のために居るんだろうと思う。
何を望んでいるんだか…。おれの望みは言ってあるが無理をさせるのは本意ではない。
無理ならおれ事切り捨てて呉れればいい。そういう意味で言えば癒しとは反対だな。
花にはなれそうも無いか。ストレス与えてるだけな気がするしやはり花と言えば女性だよなあ。
それにシャアのほうがずっと華やかだし…。何と言うか…気が咎める。不味いな…。
こういうのはすぐ悟られる上に考えが堂々巡りしてる。本格的に疲れてるか。
あー機械いじりがしたい。もの考えないで済めば何でもいい。とか言ったら本格的に閉じ込められて外に出してもらえなくなるな。
それでは世界が閉じてしまう。お互い毒にしかならない。流石にそれは嫌だ。今までの苦労が水の泡…。
目を閉じて窓にもたれかかる。正直めんどくさいけどここで投げ出すと誰かさんと同じかと思う。ムカつく。
なんで何時も腹立ててやる気出してるんだろ…。情けない…。見返りを求めてるんだろうか。それもなあ…。何か違う。
今のおれの望みはなんだろう。一番大事なのは…。まずそこから考えないと…。
帰ってくると部屋から出てこないし食事もしてないと言われる。怒っているのか?そんな気配はないが。
食事させないと。部屋に入ると明かりもつけてない。窓から入る外の明かりで窓際に座っているのがわかる。
「アムロ。何をしている?」椅子に座ったまま身じろぎもしない。ただじっと前を見ている。
「アムロ?」肩をゆするとやっと気がついたように目を向ける。
「あれ?おかえり。」
「今何時だかわかっているのか?」きょろきょろして時計を探している。
「え?ああ…。こんな時間?何時の間に…。」何時の間にって…。
「食事してないと言われたが。」
「あー。忘れてた。」
「何やっていたんだ?」
「単に考え事…。」
「とにかく食事したまえ。」大人しく椅子から立とうとしてふらつく。思わず腕を掴む。
「あれ?」
「…その様子では水も飲んでないな…。」
「…置いていってくれたのは飲んだ。その後お茶もしたし…。」良く見るとテーブルにカップがのっている。花瓶に花も。
「この花は?」
「ああ。見てたら切ってくれた。駄目だったか?」
「かまわんが。」花を切るとは珍しいな。
「庭のことは任せてある。」口出しできないと言うのが正直な所だ。
腕を引きながら明かりをつける。眩しさに目を細めている。
「食事もらってくるから座ってなさい。」とキッチンに座らせる。
運んでくると目を瞑って寝ている。寝ているときの顔は幼く見える。
起きているときは年相応と言うより年齢不詳。
ほほに触れて「いけないことをしている気がしてくるな…。」
「そう思うなら触れるな。」
「いけないことほどしたくなるものだろ?全然疲れとれてない様だが。明日も休んだほうが良さそうだな。」
「これ以上休むと脳味噌腐る。動いてる方がましだ。」
「食べないと許可できないな。」
「わかった。」おとなしくもくもくと食べる。向かいでお茶をする。
「そっちこそ食事は?」
「今日は会食だ。だから遅くなったんだぞ。」
「ああ…。そうだっけ。」
「スケジュールの管理しているのはきみだろう。」
「仕事着じゃないと覚えてないんだよ。」
「きみの仕事のやり方は条件付けか?」
「そうみたいだ。」おや…。やけに大人しい。
「大丈夫か?変だぞ。」
「考えるのに疲れたんだよ。おれって考えるの下手なんだな…。」
「休ませた意味が無いか…。」
「休みたくて休んだわけじゃないからな。」と睨みつけてくる。怒っている方が元気か。
「そんな疲れた様子で仕事されても困る。時間が取れれば長期休養するところだが。」
「閉じ込められるぐらいなら仕事したいぞ。何にもしてないとうつになりそうなんだよ。」
「何をそんなにイライラしている。」
「それを考えてて疲れたんだよ…。上手く頭働かないや…。考えてるうちに止まっちゃうんだな…。余計疲れた。」
「そういう時は考えないで遊ぶんだな。」
「遊ぶって言われても機械いじりぐらいしか浮かばないけど。ここには無いし。」
「運動すれば良いだろう。」
「趣味じゃない。」
「ここで乗馬は出来ないし。となると…。」手を握りながら「任せたまえ。」と言うと睨んでくる。
「冗談だ。」
「そう願いたいね。」
「でも気晴らしにはなるだろ。」
「多少は…。」
「ではもっと精進しよう。」
「お構いなく…。」嫌そうに言うのが何か可愛くてついニヤニヤしてしまう。
「何でそんなに嬉しそうにしてるんだよ。からかってるな。」
「いやいや。」
可愛いなんて言うとまた嫌がるだろう。それはわたしだけの愉しみだ。他のものが知らなくてもいいことだ。
言いたくなったら本人に言えば良いのだし。
「きみが居ればわたしは嬉しいのだよ。」
「何で?おれはあなたに無理をさせてるんじゃないのか?」
「きみが居てくれなければとっくに放り投げている。」
「そんな事堂々と言われても…。」
「きみが居てくれるからこんな役大人しく勤めてられる。もともときみを引っ張り出すのが目的でもあったんだし。」
「だからそんな事堂々と言うなって…。」溜息吐かれてしまった。
「いい…わかった。真剣に考えるのがばかばかしくなって来た。」
「失礼な。わたしは本気で言っている。」
「そうだな。」
「だからきみも余計なことは考えずに側に居てくれ。」
「それっておれに言いなりになれって事?」
「まさか…。ただわたしのことを考えてくれ。」
「そうしてるだろ?」
「他の雑音は聞こえているようだな。わたしの声は聞こえているのか?」
「あなたの声?」
「わたしの望みは?」
「望み?」途端に胡散臭そうに人を見る。いや真面目な話してるんだが…。
「きみは何を気にしているんだ?」
「そうだな…。まずはあなたの評判。物価の動きと人の動き。アナハイムと連邦の動向。それと総統府の管理の動き。なんか睨まれてるんだけど…。おれなんかした?それともばれてるのか?」
「確かに中枢に居るものは知っているが広めるはずは無い。」
「恥だからねえ。」
「気になるのか?」
「気になるのはあなたの名に傷が付くこと。ネオジオンはあなたで持ってるんだから。」
「気にするな。」
「またそんな…。」
「周りが隠してくれる。」
「そう言う問題なのか?」
「仕事の内だろ。」
「違うと思うぞ。そう言うなら仕事中遊ぶなよ。」
「きみは仕事のことしか頭に無いようだな。わたしの気持ちはどうでも良いのか?」
「仕事が優先だろ。」そんな事言うから触れたくなるんだが。
「わたしを不安にさせないでくれ。」
「そんな事で不安になるのか?」
「なるぞ。」断言すると困惑が顔に表れる。そんな表情にも心引かれる。
目が合うと眉を顰めて
「その顔…。やっぱからかってるな…。」