地にありて
情熱と言うのは汲んで尽きるものではなかったはず。政治に対して情熱があるとは言い辛い。
でも政治は暮らしに直結している。子供達に。
「この鉢を…。」
「はい?」バラを一鉢もたされる。
「預けるから世話を。」なんて恐ろしいことを…。
「…枯らすかも知れません。」服の端を引いて
「だいじょうぶ。てつだう。」
「おじさんは仕事に戻ったら昼間は見にもこれないし夜も遅いしほとんど見に来れる時間が無いんだ。」
「かわりにみる。」
「でも…。」それではおれが預かってるとは言わないのではないか…。
「温室は鍵をかけない。来られる時に来るといい。」困った顔で落とさないように鉢を持っていると子供にこっちと言われる。
「ここ。」言われる通りに鉢を置く。
「ちゃんとする。」泣きそうな顔で見る。
「…お願いするよ。」少なくてもおれが世話するより良いだろうが…。あまりに無責任。
「そうだ。毎日絵日記つけてくれる?」
「えにっき?」
「気がついたことを紙に書いてくれるとおじさんにもわかるだろ?」
「かみに?」物を見ないとわからないか。
「後で持ってくるよ。」買物もできないのがなあ。こう言う時に困る。やつに頼もうか…。
と思ってると古いノートとクレヨンを小さな古い花台に乗せて持ってきてくれた。お子さんのかな?
子供が開けるのを後ろからのぞく。始めのほう何枚かは書いてあるが空いてる方が多い。
「ここにかくの?」
「そうだよ。上の部分に絵を書いて下には何でもいいよ。」
「まいにち?」
「好きなときに書いておいて。」
「みるの?」
「見せてもらうよ。」
「まいにちかいたらまいにちみる?」う…。じっと見られると弱い。
「…見るよ。」
「じゃかく。」嬉しそう。クレヨンもって書き出す。
「ここに今日の日にちと曜日を書くんだよ。数字かける?」
「10まで。」日付と曜日を書いて鉢の絵を書きだす。枠からはみ出るほど大きい。
でも葉っぱの数はあっている。面白いなあ子供は。気持ちがほこほこする。
それに引き換え大人は。
「何でおれが元気になるとあなた尖るかなあ。」
「面白くないからだ。」
「何が?」
「どうしてわたしじゃ駄目なんだ。」
「は?」
「わたしといてだんだん疲れが溜まって行くと言われるのも嫌だが。わたし以外で元気になるのも気に入らない。」
「それ前提が間違ってるぞ。あなたといて疲れるんじゃなくてあなたの周りを取り巻くものに疲れるんだ。」
「でもわたし以外で元気になっているじゃないか…。」いじけてるのか?
「うん。まあ。子供は可愛いし。」
「どうせわたしは可愛くない…。」
「可愛くないことはないけど質が違うから。」遊んでるのかな?
「嬉しくない…。」やっぱ遊んでるかな?
「何が?」
「褒められても嬉しくないぞ。」褒めたうちにはいるのか?うーん。
日頃褒めなさ過ぎ?でも容姿を褒めると嫌がるしそれ以外に褒める所…とっさに浮かばない。
「まあ。お茶でも飲んだら?」
「つれないな…。」
「人からかって楽しむような人に付き合いきれません。」にやっとして「元気になってくれて嬉しいからだ。」
「うーん。しばらくもっと思うけど。」
「気に食わないのは本気だ。」
「じゃ。慣れるぞ。おれしばらく温室通。」
「何故?」そんな睨まなくても。
「鉢植え預かったんで様子を見に。」
「きみに鉢植えを?」顔に無茶なと書いてある。その気持ちは良くわかる。
「代わりに子供が見てくれるんだよ。だから毎晩様子を見に行くことになったんだ。」
「きみが見るよりましだろうが…。無茶する。」
「実地訓練兼ねてるんだろう。絵日記書いてくれることになったんでそれも見なきゃ。」やぶ睨みにボソッと言う。
「ロリコン…。」反射的に頭をたたいてしまった。
「痛いぞ…。」
「余計な事言うからだろ。」
「ますます気に食わない。」
「煩いな。じゃ付いて来ればいいだろ。毎日帰ってきてから一緒に温室に行く。それで文句無いな。」
「まあ…。放つて置かれるよりは。」
手を出して「行くよ。」
「今からか?」
「気になるんだろ?何時入っても良いってお墨付き貰ってるから。」手をつないで歩くと気配が少し柔らかくなる。
「あなたそんなにあからさまで恥ずかしくないのか?」
「きみ相手ではこれでも通じない時があるからな。」そこまで鈍いかなあ。
「そんなとこばかり素直でもねえ…。」
「きみに対して素でいられるから側に居てほしいじゃないか。」口が上手いなあ…。
「一瞬本気にしたよ。」
「わたしは本気だ。」
「はいはい。」そう言う割に隠し事はするんだよなあ。
温室に入ってそれほど遠くない所に鉢は置いてある。
「これだよ。」
「バラか。手の掛かるものを。」
「まだ若木だから。上手く咲くといいけど。」
「きみが世話するのでは無理だろう。」
「そうだね。」
「…少しは否定したまえ。」あきれたように言う。事実を否定しても始まらない。
「おれとしてはもっと丈夫でほって置いても大丈夫なのからはじめたいよ。」
「荒療治と言うことか?」それもあるけど花に触れさせたいという気遣いじゃないかな。
「花を見る余裕なんか無かったから。いい香りだよね。」
「わたしにはいささかきつい。」
「敏感なんだ。」
「香水は苦手だ。」
「おれも苦手だけど。どちらかと言うと違いがわからないから。」無言で納得してる。香水に詳しかったりしたら違う意味で煩そうだな。
「それよりここの庭あなたのために綺麗にしてるのに全然見てないんだから勿体無い。」
「庭に出るよりきみと居たいから。」
「四六時中いるだろうが。」
「部屋以外でいちゃつくと怒るくせに…。」
「あたりまえだろ。みっともない所人に見せられるか。」
「気にするな。」おい…。少しは気にしろよ。おれが庭に出ればついてくるかな。
この際周りの人には見てみぬ振りをしてもらおうか。花なり空なり見る気持ちの余裕も無かったから一息ついてどっと来たか…。
頬に手を添えてきたので「駄目だぞ。」
「つれないな。」
「ここは人の職場だ。」
「気にするな。」
「その人には神聖な場所だぞ。」なぜか微笑んで
「では部屋に戻ろう。」
「何がおかしいんだよ…。」温室から出ながら
「そういう考え方は嫌いじゃない。」
「どうせ青臭いと思ってるんだろ。」外に出るなり止まってじっと見る目が凄く優しい。こっちが驚くくらいに。
「ああ。だがきみといるとほっとする。」そのまま抱きこもうとする。手で胸を押して
「カメラがあるから止せ。」
「気にしなければいいだろうに。どうせここにいるものは皆知っている。」だからって…。
「外では大人しくしてくれ。」屋敷の中でぐらいとぶつぶつ言ってるのを服の端を引っ張って歩く。
「向こうに家の明かりが見えるだろ。あれをみるとほっとするんだ。今日も一日終わったなあって。」
「わたしについているのが負担か?」
「政治は苦手だけど…でも側で見てないと心配だから。」
「そんなに信用がないのか…。」
「あなたが擦り切れるのが心配なんだよ。」
「今擦り切れているのはきみだろう。」
「説得力あるだろう?」急に止まったので振り返る。
「どうかした?」