銀新◆吾輩は狛神である◆銀魂
万事屋には神楽、新八、銀時の三人がいた。この三人は、見かけは頼りなさ気だが、いろんな意味でなかなか噛み応えのある人間だ。
人間というのは、どこかの猫殿も言っているが、毛をもって装飾されるべきはずの顔がつるつるしてまるでヤカンのような見かけをしている。神楽は天人らしいが、容姿は人間と同じでやはり顔に毛は生えていない。
はじめは吾輩の世話をするかでもめていたようだが、この高貴な存在が二度も捨てられるはずがない。
ややして神楽が吾輩を定春と名づけた。とても平凡な名であるが、まあまあ気に入っている。
神楽は見かけによらず力強い体質らしく、吾輩は初めて人と遊べることを知った。今まで人は噛み付くだけのものと思っていたが、この少女は噛み付くことすら難しい。思いっきり助走をつけて蹴飛ばしても怪我一つすることなく、再びこちらに向かって走ってきてくれるのだ。
他の二人の男は噛み付くとすぐに血が出て、追いかけても逃げることしかしない木偶の坊であるから、この神楽の素晴らしさが際立って見える。天人は日本の地を狂わす悪人ばかりと思っていたが、神楽のおかげでそのような者ばかりでないと知ることができた。
さらに神楽は吾輩が頭や腹を撫でさせてやると、温かい手で毛並みを揃えてくれるので、吾輩はできる限り彼女の傍にいることにしている。
時折、銀時が飲みに出掛けるなどして、家に一人になった夜などは「定春ぅ」と甘えてくるのはなかなか可愛いものがある。新八や銀時がいる時はこんなふうに甘えてくることはないから、神楽の本当の心の内を見えて気がして、吾輩はほんの少し慰めてやっているのだ。
人というのは、自分が動物の言葉を解せぬから、動物も人の言葉を解らぬと思っているようで、他人に言えぬ胸の内をべらべらとよく語りかけてくる。おかげでやけに事情通になったりして、いささか面倒なこともある。
実りのあることなら面白いが、金がない、糖分が欲しい、など、吾輩には本当にどうでもいいくだらないことばかりを聞かされるこちらの身にもなって欲しい。吾輩が苦情を訴えても、ワンワンとしか聞こえず理解してもらえないのは不公平である。まったく、先日の『わんじゃこりゃああ』はどこにいったのか。
現に、先だっては、いつも吾輩用の飯を買ってくる新八に、いつも同じものでは飽きるので別のメーカーの物を買ってこいとワンワン吠えたのだが、相変わらず同じ物を買ってこられた。同じものにする理由はなんとなくわかるが、どうも気が治まらぬ。また今日も吠えてやろう。
この新八というメガネをかけた少年は、見かけが地味で軟弱そうに見えるが、なかなか芯の通った男であった。吾輩の世話を一番良くやってくれている。しかし、アイドルオタクという無駄な個性を持っているためか、部屋の掃除をする際に奇妙奇天烈な音階の歌をうたう。これは本当にやめて欲しい。
神楽も銀時もいないときなど、いつもより遠慮がなくなって声が大きくなり、吾輩はとても同じ家にいられず、外に飛び出るしかない。先日などは、雨だったので外出したくなかったのに。本当にやめて欲しい。
芯の通った男と称したが、それは特別なときだけで、やはり見た目どおりの軟弱さからか、人がいいのか、神楽や銀時からはいいように使われている。しかも本人が文句を言いつつ、言うことを聞いているのだから意味がわからない。根っからの下っぱ体質なのか。――メガネだしな。
メガネといえば、新八がメガネをかけているのは目が悪いからだと先日知った。てっきり個性の問題だと思っていたのだ。だが、メガネをかけて周りを良く見えるようになったはずなのに、どうしてこうも鈍感なのか。誰かがボケれば本能のようにツッコミをいれるくせに、自分に向かっている視線にまるで気づいていない。
新八に艶っぽい思いを寄せているのは、他でもない銀髪の甘党であった。吾輩がなぜ銀時の想いを知ったかというと、奴の新八を見る目もそうであったが、何しろ本人から聞いた。聞いたというか、聞かされたというか、先ほど記した吾輩の隣でべらべら喋るという行為からであった。
銀時というのは、不真面目が服を着て歩いているのではないかというほどの怠惰な男だ。一応、万事屋の社長でもある。ジャンプマンガの特徴で、いざという時は力強くなるのだが、いざという時だけである。
糖尿病寸前というほど大の甘党で、毎日怠けてばかりのダメな大人の代表だ。髪の色は新八とは対称の白髪で、吾輩もかなりモジャモジャしているが、この男も相当モジャモジャしている。
剣の腕は確かだが、普段がアレすぎるから、相対的に格好良く見えるのではないかと吾輩は思う。新八はこの男の輝きに感動して慕っているのだが、相手から恋心を向けられているとは思いもしないのだろう。
銀時は新八をよく見ている。もちろん、仲間として神楽のことも常に心配して気にかけているが、新八に向ける視線は他とはちょっと違う。
新八を見つめる銀時は、何も考えていなそうな無表情なのだが、目がほんの少し細くなって、どことなく幸せそうに見えるのだ。しかも、それは必ず新八からは見えない所――たとえば背後など――からである。人の後ろ姿を見つめて微笑むなど、恋をする者以外にいないだろう。
ある時も、やはりそうであった。
作品名:銀新◆吾輩は狛神である◆銀魂 作家名:ume