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銀新/気まずい二人乗り/銀魂

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 遠州屋で二人を迎えたのは、恰幅のいい主人と、おさとという主人の娘だった。
 主人が人当たりのいい笑顔でよろしくというと、今年で16だというおさげの少女が奥の庭に二人をうながした。
 がたがたと立て付けのよくない木戸をおさとが開けると、二人の前に立派な枯山水が広がった。細長く八坪ほどの白砂の奥に、苔むした傾斜のある土地に紅葉や桜の木々が植えられ、その間に大きな岩が置かれた趣味のいい庭だった。
 こんな美しい庭を眺めながらの食事はとても気持ちがいいだろう。
 枯山水の横を通って木々の茂る奥に進むおさとの後をついていく。歩くたびにゆれる二本のおさげを新八はぼんやり見つめていた。
「あ…あの、こ、苔も庭の大事な一部なので、踏んでもいいですけど…つぶさないように、き、気をつけてください……っ」
 庭の説明をしながら、詳しく仕事内容を伝えられる。
 おさとは緊張しているのか、顔を紅潮させて、なかなか二人に視線を寄せなかった。
「い、今は一番端の梅の花が落ち始めているから、そ、それも綺麗にとってほしいそうです……っ」
 白壁の隣に咲いていた梅を指差されると、とたんに微かな甘い香りがしてきた。
「ああ……綺麗ですね」
 梅を見つめ、春だなぁと新八がのんびりして言うと、おさとはえっと飛び上がり、顔を赤くしてうつむいた。新八が驚いて瞬きすると、おさとはうつむいたまま「よろしくお願いしますっ」と部屋の中に引っ込んでしまった。
「……なんですかね、あれ。僕、変なこと言いましたか」
「……さあな」
「なんですか、銀さんまで」
「なんでもねぇよ。ほら、仕事すっぞ」
 不機嫌そうにそう言われ、新八は草用のカゴを乱暴に押し付けられた。
 カゴは遠州屋が用意してくれたものだった。そこに抜いた草を入れ、たまったらこれに入れろと大きなビニール袋も用意してくれた。
 新八はカゴを抱きながら、下方の砂の庭を見下ろした。日陰のこの場所から眺めると、白い砂は太陽の光を浴びてまぶしいほどだ。
 これほど立派な庭に専属の庭師がついていないはずがなかった。それなのにどうして万事屋に依頼があったかというと、草が生えたぐらいで庭師を使うと金がかかりすぎるという理由らしい。
 それでも定期的に庭師が管理している庭である。石の周りに小さな若草がちょこちょこ生えている程度で、新八には楽な仕事にみえた。だが、やり始めてみると、時間ばかりがたってなかなか綺麗にならない。抜いても、抜いてもまだ草が残っているのだ。
 遠州屋が用意してくれたカゴの中に小さい草がたんまり入っている。もう二度も袋に捨てに行ったのに、すぐにたまってしまう。
「ちょっと銀さん。分担してやろうって言ったじゃないですか。銀さんがあっち側から、僕はこっちから。それなのに、なんでずっと僕の近くにいるんですか」
「いいんだよ。なんか一人は淋しい」
「子供かアンタ! さっきからアンタ無駄口ばっかじゃないですか。真面目にやってくださいよ」
「今こうして新八くんがしゃべってるのは無駄じゃないんですかー。俺ぁ、真面目だよ。しゃべりながらも両手は通常の三倍動いてっからな」
「赤い彗星で草取りですか。まあ、どこの草取りしようが働いてくれればそうでいいですけど……ほら、ここのお嬢さん、部屋から僕たちのこと見てますよ。信用なんですよ僕ら。苔までむしるとか思われてるのかな」
 新八はカゴを揺らしながら、別の岩に移動する。
「……なんだよ、お前本当に気づいてなかったのかよ。ありゃ、お前に気があんじゃねーの」
「え……ええっ」
「大きい声だすな。手ぇ休めるな」
 面白くなさそうな銀時の声に、ドキドキしながら手を動かす。
「いやー、そんな、僕なんか……えへへへ」
「………」
「……えへへ…」
「大丈夫だ新八。お前は俺が守る」
「僕ヒロイン? っていうか僕困ってないですけど!」
 新八が言うと、銀時は呆れたように深いため息をつく。
「バカだなお前、あれ、あのおさと。可愛いツラして中身はお登勢よ?」
「えっ、お登勢、さん?」
「料亭ってのはお偉いさんや金持ちがくる場所だろ? そういう奴らにガキんころから慣れちまうと女はすれちまうんだよ。お登勢、怖いだろー? ありゃ隠れて煙草プハーなんてやってるね、たぶん」
「ええー? そうですかね。そんな子じゃないと思うんですけど」
「ったく、年頃の女を見るとすぐこれだよ。なんだ、ヤリたいのか。ヤリたい盛りなのか。でも中身、お登勢だよ?」
「へっ、変なこといわないで下さいよ! そんなこと考えてないです!」
「ピチピチに見えて、中身はカラッカラに乾いてるよ? お登勢だよ?」
「なんですか。あの娘のこと嫌いなんですか。可愛いのに」
「い…いーから。銀さんのこと信じろよ」
「なんか……僕に彼女ができるの悔しいだけじゃないんですか」
「ばっ、ばーか、馬鹿じゃないのお前。俺はそんなケツの穴のちいせぇやつじゃねぇよ。っていうか、お前付き合う気満々?」
 銀時がぶちぶちと草を引き抜く。通常の三倍が四倍になったような勢いだ。
「そんな…本当に僕に気があるかなんてわかんないし……えへへ」
 草を抜きながら新八はでれでれと笑う。
 あの娘を意識していたわけではないが、あの挙動のおかしさが自分への好意のせいだと思うと、おさとがとても可愛く思えてくる。
 草を抜きながら、新八さんなどと自分を呼ぶおさとを想像して、にやけた頬がさらにゆるくなった。
 下方の縁側からおさとが二人を呼ぶ声がした。万事屋さん、と呼ばれたはずなのに、新八は自分の名前を呼ばれたように勢いよく立ち上がる。
「お茶、淹れたんで、そろそろお昼にしたらどうですかー?」
 木々の陰になって薄暗い場所から、日の当たる縁側のおさとの肌は眩しいほど白く見えた。あの子が自分を気に入ってくれている。そんな微かな期待に、新八は胸がどきどきしてくる。屈折16年。やっと自分にも彼女ができるのかと、図々しい想像をしながら新八は傾斜を下りていった。