デジキャラット・シンフォニー 2
「みなさん、ただいま午後8時を回りました。投票はこれにて締め切られました。いよいよ東京都知事選挙の開票が始まります」
いっせいに歓声が上がった。
静岡駅で列車待ちをしている間、美香は伝えられる開票速報をボードに書いて掲示した。
列車が三島に着いたときのことだった。美香が書いた開票速報が驚きの結果を伝えた。
平田久弥 43000票
原口恒雄 52000票
「そんな、これは間違いだ・・・」
だが、列車内の歓声は前にも増して高まっていた。「平田、平田」の連呼が続き、まるでサッカーのサポーターのようであった。
一方、町田の久弥の選挙事務所ではでじこたちもこの結果にあぜんとしていた。
早くも祝勝会を開く原口陣営の様子がテレビで写っていた。
「絶対世の中が間違っているにょ。久弥さん、くやしくないのかにょ?」
「まだ開票率5%ではないか、あせらない」
「まだわからないにゅ」
「久弥さんは自分が勝てると思っているのかにょ?」
久弥は一呼吸おいてから言った。
「私が勝てなきゃ世の中のどこかが間違っているんだよ」
久弥の心の中では自分が勝てると思っていたらしい。また、その確信もあった。
選挙では人口の少ない町から早く開票が終わるために早く開票速報に反映される。
原口の地盤は地元の清瀬市、青梅市、西多摩郡など東京の中でも人口の少ない町に集中していた。これに対し久弥は東京有数の大票田、町田をほぼ手中に収め、調布、昭島、羽村、東久留米、府中、多摩、日野などを押さえたばかりか、世田谷区、中野区など23区のうち15区までをリードしていた。アメリカ大統領選方式なら久弥の圧倒的勝利は確実だった。
そのため、久弥は大票田の票が開けば自分の逆転勝利はありとにらんだ。
果たして、午後9時半を回って列車が新横浜についた頃から展開が変わった。
「平田久弥 9万2000票 原口恒雄 10万4000票」
もはや平田支持者は熱狂的にすらなっていた。
「久弥さん、表に何か来たにょ」
久弥が表に出てみると、それは美香たちだった。
「これはいったい?」
「久弥さんにケーキとクロワッサン届けに来た」
見ると、ケーキは確かに出来上がっていたが、クロワッサンは生地のままだった。
「そうか、奥にオーブンがある。焼き立てを食わせてくれ」
「生きのいい魚だみゃ」
「おお、ありがとうよ」
作品名:デジキャラット・シンフォニー 2 作家名:細川智仁