デジキャラット・シンフォニー 2
14.ワルティング・マチルダの歌声
そのころ、猿橋では相変わらずにらみ合いが続いていた。
「小林知事、連絡です」
「ん、何だ?」
−デジキャラット率いる本隊が取手を占領−
もちろんこれはぴよこによる「にせでじこ」である。
「いよいよ来たか、みんな!すぐ原口派におそいかかれ!」
ワーッと言うかけごえとともに相手に襲い掛かった。すっかり油断をしていた原口派は主力を御殿場に移していたためひとたまりもなかった。
「一気に大月まで攻め落とせ!」
だが、小林知事の一団は大月どころかその日のうちに相模湖まで達した。
これに驚いたのが御殿場で戦闘をしていた双方の集団だった。
「なんと、相模湖と取手まで達したか・・・よし、こちらも打って出ろ!松田まで攻め落とせ!」
勢いに乗った渡辺一派は一気に攻め寄せた。
一方、原口派を率いていた御法川はあわてた。渡辺一派だけならともかく、相模湖に小林知事、取手にぴよこの「にせでじこ」が達した以上、自分たちも挟み撃ちになることは確実だった。
「みんな、逃げるのだ」
御法川は小田原から茅ヶ崎方面へ急いだ。
だが住民の動きはそれより早かった。
この夜、町田駅前ではどこからか歌が聞こえた。
「Once a jolly swagman camped by a billabong.
Under the shade of a coolibah tree.
And he sang as he watched and waited till his billy boiled.
You will come a waltzing matilda with me.」
生前の平田親子が好んだ「ワルティング・マチルダ」である。
この歌を合図に町田市内ではいっせいに原口派への抵抗運動が起こった。
町田市、狛江市、世田谷区など小田急沿線では「渡辺派迫る」の知らせに住民たちが一斉に立ち上がり、原口派を襲い始めたのだ。これらの町ではいずれも住民の団結力が強く、また、久弥たち平田一族との結びつきも深かったため原口派に対する反感が強かったのである。
「どこか身を隠せるところはないか」
御法川がそうつぶやいた瞬間、一人の着流しの男が現れた。
「待ちかねたぞ!御法川!」
「だれだ!」
「元、水産大学校校長、尾崎和夫が長男、尾崎守道!」
作品名:デジキャラット・シンフォニー 2 作家名:細川智仁