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デジキャラット・シンフォニー 3

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「下関の悲劇を東京には持ち込ませないぜ!」
守道の脳裏にはかつて三角屋根の駅として親しまれた地元の下関駅が心無い放火によって一瞬で全焼した光景が焼きついていた。この時父、和夫の墓前で泣いてわびた苦い過去がある。めったに高い評価を他者に与えるといったことがなかった和夫が唯一驚嘆した東京の景色、それがレンガ造りの東京駅だった。邦俊にとっても祖父道明の思い出が残る場所だった。
だが火の勢いは強く、東京駅では辛うじて一進一退の攻防になっているものの、日比谷公園では多くの木が類焼して火の勢いは増していた。
東京駅でも火を食い止めるのが精一杯だった、火の勢いは丸の内口を素通りし、神田駅前から万世橋にまで迫った。交通博物館は閉鎖され、旧万世橋駅は臨時の救急病院になった。こうなるとゲーマーズも休業し、店長さんは神田川の水をくみ上げて消火活動に当たった。
その時だった。アキハバラに再びオタクたちが戻ってきたのである。見かけは異様でいろんな属性があるが、ここに至ってはそんな属性や壁は何の障害にもならなかった。豊富な知識を生かし、あるものは消火剤を作り、あるものはけが人の治療や看護に当たり、あるものは店の商品を運び出し、あるものは交通整理に当たり、そしてまたあるものは神田川の中に入って自ら水をかぶりながら消火活動に参加した。もはや彼らの目的はただ一つ、自分の持てる才能を使ってアキハバラの町を守ることのみだった。
オタクたちだけではない、アキハバラの店員たちも万世橋警察署の署員も交通博物館の職員も、そして道明・久弥・邦俊の平田家三代にわたって愛された「肉の万世」の店員たちは特に積極的に活動した。平田家の迎賓館として利用されてきた「肉の万世」は4階に「久弥の席」、7階に「美香の間」、そして最上階の10階には「平田道明の間」があるほど平田家にゆかりが深かった。店員たちは「平田道明の間」だけはなんとか残そうと死に物狂いで働いたのである。アキハバラで神様になっていた道明の遺構が消えることはアキハバラの歴史が消えることであった。歴史を否定することは自らの出自を否定すること、すなわち自らの存在意義を否定することと道明は教えていた。
歴史の存在なくして自らの存在もないのである。だからこそアキハバラから歴史を消すことだけは防ぐ責務があった。