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Family complex -ゲームをした日(仮)-

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夕焼けに染まる空を背に、ギルベルトは本田家の前にバイクを停めた。
自分の甥のルートヴィッヒが菊の家に来てから、気がつけばもう10日も経ってしまった。
運の悪い事にここしばらくは夜と朝の勤務が多く、朝は彼より先に起きるし、帰ってもルートヴィッヒはすでに寝てしまっているか、もしくは学校に行った後という生活で、最近はろくに話もできなかったが元気にしているだろうか。
当初の予想通り、菊の手を焼かせている様子はなさそうなものの、真面目なあの子の事だから見知らぬ家でまだ我が侭の一つも言えずにいるだろう。
今日は夕飯前に帰れたし、明日は休みを貰ったからやっとゆっくり過ごせる。
構えなかった分、今日は存分に甘やかしてやろうと思いながら玄関を開く。
「ただいま」
そう言うと、普段は菊がすぐに顔を出すのに、しばらく経っても今日は返事がなくてギルベルトは首を捻った。
二人とも留守なのかと思ったが、ルートヴィッヒの靴も菊の履物も玄関にあるし、中にも人の気配がある。
一体どうしたのだろうと思いながら靴を脱いで居間を覗き込むと、二人はテレビの前に並んで座っていた。
テレビからは軽快な音楽が流れていて、コントローラーを握った二人は手を動かしながら熱心に画面を見つめている。どうやら、テレビゲームをしているらしい。
「…お前ら、何やってんだ」
「あ!すみません、おかえりなさいギルベルトさん」
そこで初めて、菊が慌てたように振り返った。
「おかえり、兄さん」
「…おう」
「すみません、もう少しだけ待っていただけますか、すぐ終わりますので!」
二人はギルベルトへの挨拶もそこそこに、時間を惜しむようにすぐにテレビに向き直ってしまう。そしてまたテレビ画面にかじりついた。
「あー、やられた!」
「ふふふ、そう簡単にはやらせませんよ」
ルートヴィッヒが焦ったように叫ぶと、横の菊が得意げに笑う。
その顔は、いつもの取り澄ました顔と違ってひどく楽しげで、ギルベルトは目を見張った。
(珍しいじゃねえか)
普段は薄笑いがせいぜいのくせに。
「ああっ!そこでそうきますか!」
「さっきのお返しだ」
今度は菊が焦った声を出す番で、ルートヴィッヒが得意げな顔をしている。
こちらも珍しい。
ルートヴィッヒは普段人と、特に大人と接する時とても遠慮がちと言うか、良く言えばとても礼儀正しいから、こうして挑戦的に物を言うのをあまり見た事がない。
自分を他所に、楽しそうに盛り上がっている二人の背を見つめて、ギルベルトは眉間に皺を寄せた。
(なんだよ、えらく仲が良いじゃねえか)
ルートヴィッヒが来てまだ10日程度だ。一体いつの間にこんな風に、互いの普段出さないような面まで見せる程仲良くなっていたのだろう。
なんだか自分だけが一人取り残されたような気がして、ギルベルトは苛々する気持ちのままテレビに近づくと、その下に置いてあるゲーム機のプラグを抜いた。
「「あー!!」」
画面が消え、二人が叫んだのは同時だった。
「なにするんですか!!」
「なにするんだ兄さん!!いいところだったのに!」
振り返った二人は眦をつり上げてこちらを見たから、ギルベルトは更に眉間に皺を増やして口を曲げる。
「うっせえ。俺をほっぽっとくお前らが悪い」


**


「すみません、今日の夕飯を賭けて勝負をしていたもので」
3人分のお茶を淹れてきた菊は取り繕うように微笑むと、あからさまに拗ねている様子のギルベルトを宥めるように「おかえりなさい」ともう一度言った。
「ここしばらく、こうやってメニューを決めていたので、私も熱中してしまって」
菊はどこか誤摩化すように笑っている。子供と一緒になって夢中で遊んでいたのが、今更のように恥ずかしいといった具合だろうか。
曰く、この数日間は日によってゲームソフトを変えたり、じゃんけんだったりと、毎日こんな感じで夕飯を決めていたらしい。
傍らのルートヴィッヒは、ゲームを途中で消された事への不満げな表情を隠さず、「今日は俺が勝ってたのに」と言って唇を尖らせている。
「ふーん」
ギルベルトは茶を一口啜ると、片手で頬杖をついた。
菊がゲームや漫画が好きなのは知っているが、大体の場合、大勢でやるものより一人で進めるものを黙々とやっている事が多い。
(あんな顔、久しぶりに見たぜ…)
そんな菊が、まさか子供のルートヴィッヒと一緒にあんなに楽しそうにやるとは思わなかった。
しかも、勝負に夕飯のメニューを賭けるなんて子供じみたことまで。
自分の居ない間の空白を見せつけられたようで、どうにも面白くない思いを持て余したギルベルトは、ふとそこである事を思いついた。
「じゃあ、俺とルッツで今から勝負しようぜ! んで、今日の夕飯は勝った方の好きなもんな!」



**


ギルベルトの意見に菊も異論はなく、ギルベルトが勝ったらオムライス、ルートヴィッヒが勝ったらハンバーグということになった。
勝負の行方を待っていると遅くなってしまうので、結果が出たら携帯に連絡をくれるようにと言って、菊は先に買い物に出た。
さて、どちらが勝つのやら。
普通に年齢を考えれば、ギルベルトの方が断然有利ではある。だが、彼はテレビゲームがあまり上手いといえないというのが菊の印象だった。
新しい物好きなせいか興味はあるらしく、菊が新しいソフトを買うとやりたがるのだが、如何せん飽きっぽいので、大体の場合、上達する前にやめてしまうのだ。
まあ、彼には仕事があるので時間がないというのもあるだろうが。
逆にルートヴィッヒは、集中力もあるし飲み込みも良く、意外なくらいに成長が早い。
ゲームはあまりした事がないと言うし、実際初めはとても弱くて、さすがに実力差がありすぎるので菊の方がレベルの調整をしたり、こっそりと手加減をしてはいたのだが、先ほどは油断していたところをうっかりやられるところだった。
ルートヴィッヒも、菊と少しずつ打ち解けてきたように思えるものの、まだ時々寂しそうな目をしていることがあるし、なによりも家族となると話は別だ。1週間以上もろくに会話していなかったのだし、二人きりの時間も必要だろう。
今頃はきっとゲーム機を前に白熱しているだろう二人を思い浮かべて、菊は少し頬を緩めた。

ちょうど用事があったので、それを済ませてから商店街へと歩いているときに携帯に着信があった。ルートヴィッヒだ。
「はい?」
「菊さん、夕飯はオムライスで…」
電話口に出たルートヴィッヒは、どこか遠慮するような口調でそう言っていたが、突然途中で声が途切れ、
「おい、今のナシ!ハンバーグでいいぜ!」
いきなり別の声が言った。菊が何事かと思う間もなく、電話が切れる。
「…は?」
ツーツーという音を聞いて携帯を耳から離すと、菊は思わずそれを見つめて嫌な予感に眉間に皺を寄せた。
一体何が起きたというのだろう。