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末裔

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 無事にラトラスの牧場から戻ったヴィンセントを見て、ほっとした表情でルクレツィアが尋ねた。
「どうだった?モンスター」
「見たこともないやつだった」
「そう・・・、怖いわね、そんなやつがこの辺にいたなんて・・・」
「まさかこの銃が再び役に立つことになるとはな」
 居間に入ったヴィンセントは銃を置き、疲れたようにソファに腰を下ろした。
「あなた、大丈夫?顔色が悪いわ」
「・・・・大丈夫だ。少し身体がだるいだけだ」
 彼の瞳が紅く変わってきている。呼吸が少し荒い。
 ルクレッツィアは彼の額に手をあてがう。
「熱があるわ・・・もしかしたら、薬の副作用かもしれない・・・もう、効果も切れてきてるみたいだし。切れるのが早すぎるわ。やっぱり、今の薬もやめた方がいいかもしれない・・・」
「いや、構わない、続けてくれ」
「ううん、今の薬はもう限界よ。あなたの身体への負担が大きすぎるわ。もうちょっと改良してみる。とりあえず、ちょっとサンプリングさせて」
「無理はやめろルクレツィア、セフィロスもいることだ」
「大丈夫。もちろんセフィロスをおざなりにしてまで研究する気はないわ。さ、前開けて」
 そういうとルクレッツィアは奥の部屋へ器具類を取りに行った。
 ヴィンセントはシャツのボタンをはずし、前を開いた。細身だが筋肉の引き締まった胸板の中央には1つの銃創痕がある。その下方、ひときわ目立つのが腹部に残る異形の細胞。
 唯一カオス細胞が表面化している部分だ。
 ルクレッツィアが戻ってきた。
「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
 ルクレッツィアがその異形の肌にメスをあてがい、浅く切り開いて中の細胞を採取する。
「悔しいわ、新種細胞を除去すれば、モンスター細胞は消滅するはずなのに・・・消滅したのは三つだけ。こいつだけは何か違う・・・、単独で再生能力を持っているし、もしかしたら宿主を変態させる能力もあるみたい。それに決定的な弱点がないんだから・・・活動を抑えるのが精一杯、薬を作ってもすぐに抵抗力ができて効かなくなってしまう・・・手強いわ。ごめんね、あなた、もう少し時間をちょうだいね。」
「頼むから、本当に無理はするな。お前に何かあると応える」
 続いて、彼の左腕から採血しながら彼女は話した。
「わかってるわよ、でも・・・ほら、私が滝の裏の洞窟で過ごしていた時あったでしょ。あの時、私はセフィロスとあなたを失った悲しみに明け暮れるだけで何もできなかった。せめて、カオスが何であるか調べれば・・・カオスが何であるかわかっていたら・・・私は絶対にあなたにあれを渡さなかった。何もできなかった自分が悔しいの。だから、今度こそあなたの身体を元に戻したいの」
「ルクレツィア・・・そこまで自分を責めるな。カオスを受け入れたのは私だ。お前は後の三つを取り除いてくれただけでも十分だ。カオスは制御できる。それ以上無理をしなくてもいい」
 ルクレツィアは首を振った。
「お願い、やらせて」
「・・・・すまないな、苦労をかける」
「うふっ、やったー、本当の所はカオスが手強いから意地になってるだけかな・・・相手が手強いほど私は燃えてしまうのよ」
 そういうと彼女は採取したばかりの細胞の入ったシャーレと彼の血液の入ったサンプル管を持って奥の部屋へ消えた。
「・・・カオスか・・・皮肉なものだ。自ら進んで受け入れたものだけが残ってしまうとはな・・・」
 身体が重い。
 ヴィンセントはソファに身体をうずめた。


・・・目覚めよ・・・
誰だ?お前は。
・・・私はお前だ・・・
何を言っている。

ここは?・・・寒い・・・どこだろう・・・
美しい女性が目の前にいる。
銃を構えている。
彼女の胸が弾けた。
赤い鮮血が周囲に飛び散る。


「母さん!!」
 ヴィンセントは跳ね起きた。
 そばでルクレツィアが怪訝な表情で眺めている。
「あなた、うなされていたわ、大丈夫?」
「あ、ああ」
「お母さんの夢みてたの?」
「え?」
「だって母さんって・・・」
「そうか、そんなことを・・・ただ夢の中に1人の女性がいて・・・死んでしまう・・・」
「そう・・・悲しい夢ね。その人がお母さんなの?」
「さあ・・・わからない。母も父も記憶にはないからな。私がそう叫んだのであれば母なのかもしれない」
「あまり信じたくないね。その人、どんな人だった?」
「そうだな・・・お前に少し似ていたかもしれない」
「まあ、でも死んでしまうんだからあまりいい気はしないわね、忘れちゃえ、そんな夢」
「そうだな、忘れることにする」
「そうそう、じゃ、私は夕食の準備してくるわね」
 ルクレツィアはキッチンへと向かった。
 残されたヴィンセントは1つため息をついた。
(今頃になって記憶にもない母の夢を見るとは・・・一体どういうことなんだ?)
 まだ身体がだるい。
 自分の中のカオス細胞が再び活性化したこと、それはこれまでにもたびたびあったことだし、たとえその状態であっても制御することができたので特に問題はないはずだ。しかし、不気味なモンスターの出現、記憶にない母の夢と重なったこともあり、彼はいやな予感を感じていた。
 彼は起きあがると奥の部屋へ入った。そこはこじんまりとした研究室になっていた。実験器具や薬品類はルクレツィアとヴィンセントが混乱状態のミッドガル神羅本社の研究室および神羅屋敷から使えそうな物を掻き集めてきた。
 部屋の片隅には大量の資料が積み上げられている。同時に集めた宝条の研究レポートや資料である。新種細胞やモンスター細胞に関する資料は根こそぎ集めてある。
 ヴィンセントが何気なく資料を掻き分けていると宝条の日記らしいものが出てきた。かなり古いノートで表紙もぼろぼろだがかろうじて内容が読めた。中にはその日その日の出来事が記されている。ちょうど、ジェノバプロジェクトを遂行時のニブルヘイムでの出来事が記されていた。ヴィンセントはその中のある日付の所に釘付けになった。

○年○月○日
ジェノバ・プロジェクトの方は順調だ。思い通りの結果が出てくる。
ジェノバは素晴らしい。おかげで新種の方の実験に時間を割くことができないが、まあいいだろう。悔しいがジェノバは新種を越えてしまうかもしれない。
それにしても今日やってきたタークスの男・・・
あいつを一目見たとき閃いた。
新種を移植するのはこの男しかいない。
タークスといえば、強靱な精神と体力の持ち主だ。それもある。
しかし、それ以上の衝動があった。
そう、カオスが私に語りかけたのだ。私をあいつに・・・と。
カオス・・・実に興味深いが今の私にとってはジェノバの方が重要だ。
機会があればカオスの言うとおりにしてやってもいいが・・・あくまで機会があればだがな。

(どういうことだ?宝条は初めて会ったときから私にカオスを移植するつもりだったのか?
 しかもカオスの指示で?カオスには意志があるのか?)
 ヴィンセントは引き続きページをめくった。

作品名:末裔 作家名:絢翔