末裔
○年○月○日
今日はちょうど実験が一段落し、時間ができた。
そこで前から気になっていたあのタークスの男について調べてみた。
あの男、なかなかおもしろい経歴を持っている。
カオスが興味を示すことと何か関係があるのかも知れない。
この辺の所をもう少し詳細に調べればおもしろい研究になるかも知れない。
ジェノバプロジェクトが落ち着けば、本格的に調べてみようか・・・
(宝条は私のことを調べていたのか・・・私がタークスに来た経緯も知っていたのだろうか? 宝条は一体どこからカオスを?)
いろいろな疑問がふつふつと沸いてくる。
ヴィンセントはさらに資料を掻き分けた。
探していたものが1つ見つかった。さらに古い日記だ。
○年○月○日
今日、ボーンヴィレッジのはずれに見つかった珍しい化石を見に行く。
もはや伝説だけの存在となった魔族の化石らしい。
村をでて、北へ5時間、針葉樹林の奥地にそれはあった。
精悍な体つき、大きく広げられた翼。見つめる物をすべてを闇に変えてしまうという恐ろしい瞳。
石になっているというのに、たいした迫力だ。この迫力には鬼気迫るものがある。
こんなものが実際に飛び交っていた時代を想像すると身震いがする。
これを現代に再現できればどれほど素晴らしいことだろうか。
サンプルを採取しようとした時、私の意識に何かが流れ込んできた。
・・・カオス・・・再び・・・
そうか、こいつはカオスというのだな。
カオスの再現をカオスが望んでいる。こいつは意志を持っている。
これはおもしろいではないか。意志を持つ化石。
望みどおりお前をこの世へ甦らしてやろうではないか。
また、1つ楽しみが増えた。
・・・
ヴィンセントは沈黙したまま、しばらくそのままそこに佇んでいた。
(カオスは一体何者なのだ?魔族とは? なぜ、私を選んだのだ・・・目的は何だ?)
突然見つけた記録に彼の頭は半ば混乱し始めていた。
(ふっ、こんな事を考えるのはよそう・・・カオスが意思を持っているなどばかばかしい。カオスは完全に制御できている。何も心配することはない)
彼はそう自分に言い聞かせた。例えようのない不安を覚えながらも。
「あなた、夕食ができたわよ」
ルクレツィアが呼びに来た。
「あら、珍しいわね、あなたがこんな所にいるなんて、何か捜し物?」
「いや、何でもない」
ヴィンセントはその部屋を出た。
・・・時は来ている。目覚めよ・・・
目の前に紅い翼の悪魔が浮遊している。カオスだ。
・・・もうよいだろう、私はさんざんお前の為に力を貸した。そろそろお前も目を覚ませ。我らの為に力を発揮するのだ・・・
冗談じゃない。誰が貴様の言いなりになどなるものか
・・・私とお前の出会いは運命。出会うべくして出会った。我らの積年を恨みを果たすため・・・
何を言っているんだ。
・・・思い出せばわかることだ、ふふふ、いずれ目覚めさせてやる・・・
カオスはそう言うと不敵な笑みを浮かべ飛んでいった。
「あなた、大丈夫。またうなされてたみたいだけど・・」
「ああ、大丈夫だ」
「また、お母さんの夢?」
「いや、違う」
彼はカオスのことは言わなかった。言っても彼女によけいな心配をかけるだけだからだ。
(ふっ、あんな資料を見てしまったくらいでこんな夢を見るとは私はどうしたものだろうか・・・)
彼は苦笑した。
しかし、その夢は毎夜続いた。