末裔
「ルクレツィア、ここにいたのか」
どれくらい資料を探していたのだろうか。彼女はその声に振り返った。
ヴィンセントが研究室の入り口に立っている。
「さっきはすまなかった」
「あなた、もう起きて大丈夫なの?」
「ああ、大分回復した。もう動ける」
「そう・・カオスはすっかり本調子なのね」
彼女は寂しげに言った。
「さっきは・・その・・情けない姿を見せてしまった。もう大丈夫だ。忘れてくれ」
ふーと彼女はため息をついた。
「もう、あなたったら、どうしていつもそうなの?何でも一人で背負い込もうとするんだから・・忘れてくれだなんて、何を言うのよ。私たち夫婦でしょ」
「ルクレツィア・・」
「私だってカオスに負けたくない。お願い、一緒に闘わせて」
「これ以上お前を巻き込みたくない」
「ふふ、もう十分すぎるほど巻き込まれてるのよ。私だけ逃げるわけにはいかないの」
「本当にすまない、ルクレツィア」
「だからあ、謝らないの。当然の事なんだから」
ヴィンセントはたまらず彼女を抱きしめた。
「ありがとう、お前がいてくれて本当に良かった」
「くすっ、わかればいいのよ。あ、もうこんな時間だわ。セフィロスがお腹空かせて待ってるわね。私、見てくる」
「後は私が何か探してみよう」
「うん、お願いね」
残された彼はある資料を探した。おそらくどこかにあるはずだ。
−自分に関する資料−
宝条は自分のことを調べていた。何かそこに手がかりはないのか・・
まだ痛む脇腹を時折押さえながら、彼は資料を引っかき回した。
あった!
−タークスの個人記録のコピー−
氏名:ヴィンセント・ヴァレンタイン
そこには彼にとってあまり思い出したくもないタークス時代の職歴がつらつらと記されていた。彼は時間をさかのぼる方向へ記録を追っていった。そして、本人では決して見ることのできない記録を見つけた。
・アイシクルファンタム。情報通り、村より西へ2kmの祠の中に少年を発見。
・胸に被弾しているものの生命反応あり。かなりの生命力と推定。
・射撃−ハイレベル。
・魔力−異常値
・ターゲットであることは間違いない。身柄を確保。・・・・・・
(アイシクルファンタム?・・・アイシクルエリアか?・・私はそんな所で神羅に捕らわれていたのか。これは大きな手掛かりだ。こんなものを入手できるとは宝条もたいした奴だ。今回ばかりは宝条に感謝しなければならないな・・・にしても・・・ターゲットとは・・・神羅も初めから私を狙っていた?)
「何か見つかった?あなた」
ルクレツィアが戻ってきた。
「ああ、これを見てくれ」
「まあ・・・」
「その少年が私だ。おそらくその時に記憶を無くしたのだろう。アイシクルで私は捕らわれたようだ」
「あなた、さっき私も資料を探していて・・・結局あまりめぼしいものは見つからなかったわ。でも、なんか天使と魔族の戦いっていう伝説のことがちょこっとだけ書いてある資料が紛れていて気になったんだけど・・・何か関係あるかしら・・・」
「ルクレツィア、カオスは魔族だ。宝条の日記に記されていた」
「まあ、そうなの。その魔族の伝説はどうやら主にアイシクル地方に伝わっているらしいわ・・・それ以上のことはわからなかったんだけどね」
「カオスの化石があったのはボーンビレッジの北方、私が神羅に捕らえられたのもアイシクルエリアか・・・私には少年時代の記憶がない。どうやらそこから生じる心の隙にカオスが付け込んでくるようだ。アイシクルには私の過去に関する何か重大な手掛かりがありそうだな」
「あなた、アイシクルに行ってみるべきだわ」
「しかし、この状況でお前をここに置いて行くわけにはいかない」
「私も一緒に行くわ」
「だが、セフィロスもいることだし、ここを放っておく訳にも・・」
「セフィロスも連れていきましょう。チョコボ達は・・ヴォルドさんにでもお願いしましょう」
「・・・・・」
「ためらっている場合ではないでしょ。カオスにうち勝つためには何か一つでも手がかりをつかまなきゃ」
「参ったな、お前には・・すまないが付いて来てくれるか?」
「うん、ちょっとした旅行と思えばいいじゃない」
「ありがとう・・・カオスのことが何か判るかもしれない。それにきっと私の失われた記憶がそこにあるはずだ。記憶さえ取り戻せばカオスに打ち勝つ活路が開けるような気がする」
「ええ、あなた。行きましょう、アイシクルへ」