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末裔

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 ヴィンセント達はとある大きな屋敷の前を通りかかった。村には似つかわしくない洋館がひっそり佇んでいる。ヴィンセントの脳裏にある光景が甦った。

 とある一室の窓辺
 窓越しに外には煌めく銀世界。
 まだ幼い少年と美しい女性
『ヴィンセント、お父さんがいないのは寂しい?』
『いいえ、寂しくありません。でも・・お父さんはどこへ行かれたのですか?』
『お父さんはライフストリームに還ったのよ、私たちを守るために。あの人は強くて勇敢で逞しい人だった。あなたのその黒い髪も雪のように白い肌も大地の色の瞳もみんなあの人のものよ』
『僕もお父さんみたいに強くなるよ。僕が一生お母さんのそばにいてずっとお母さんを守るからね。そして悲しい時は慰めてあげるからね』
『ふふ、ありがとう、ヴィンセント。貴方には私が、私には貴方がいるわよね』
 栗色の艶やかな長い髪と碧色の瞳の女性は少年の頭を撫でた。彼女の白くか細い指が少年の漆黒の髪を梳く。いつぞやの夢に現れた女性。

「ほー、その屋敷に何か興味でもおありかな?」
 ローレンツに問いかけられヴィンセントははっと我に返った。
「あなた、どうかしたの?」
 ルクレツィアが尋ねた。
「いや・・何でもない、ランカートさん、この屋敷は?」
「この屋敷には一族の族長が住んでおった。お前さんと同じ名前の少年もこの屋敷に住んでおったよ。ヴァレンタイン家は我らファンタムの一族の族長であったと同時にダークウルフハンターでもあった」
「ダークウルフハンター?」
「ダークウルフは普通の狼とは違う。頭を撃たなければ倒れない。高度な射撃テクニックを必要とするのじゃ。ヴァレンタイン家は主としてダークウルフを討つのを得意とし、我々の筆頭に立って周囲の村々をモンスターから守ってきた」
「へえーなんかかっこいいね、あなた」
 ルクレツィアはヴィンセントを一瞥してにっこり微笑んだ。
 ヴィンセントはもう一度屋敷を見た。
(私はここに住んでいたのか?)

 一行は再び歩き出した。
 歩きながら、村の風景を見つめるヴィンセントには再び記憶の断片が甦っていた。

 あの女性が一丁の銃を差し出した。
『ヴィンセント、あなたは将来一族の長として、村を束ねなければなりません。明日から銃の使い方を教えてあげましょう。これを持ちなさい』
『はい。この緑色のは何ですか?』
 銃には小さな淡い緑色の珠がはめ込まれている。
『それは冷気のマテリア、お父さんが得意だった魔法が封じ込まれてるの。お守りよ』
『きれいですね、お母さん。僕にも魔法が使えるようになるのでしょうか』
『ええ、きっと使えるわよ。でも、むやみに使ってはダメよ。銃と同じよ』

 この村には彼の壊れた記憶の断片が散らばっているようだった。
 そして甦る記憶の断片にはいつも母がいる。
 この村には確かに自分と母がいたのだ。

 そして・・・

 続いて彼の脳裏に甦ってきたのは激しい野次と罵声
−悪魔の子!−
−呪われた子!−
−一族に災いをもたらす−
−殺してしまえ!−

 胸が締め付けられるような感覚に襲われ彼は思わず目を閉じた。

 やがて彼らはローレンツの家に到着した。
「今はわし一人じゃ。広い家の中がさびしゅうてな。ま、ゆっくりしていくといい」
 部屋に案内されたヴィンセント達はようやく落ち着くことができた。
「疲れただろう?ルクレツィア、すまなかったな」
「ううん、いいのよ。それより、ランカートさんの言ってたヴィンセント・ヴァレンタインってやっぱりあなたなのかしら?」
「おそらくそうだろう」
「ねえ、他に何か思いだした?」
「ああ、断片的だが少しづつ思い出している」
「そう、ランカートさんあなたの少年時代のことを知ってるわよ、きっと。彼に会えてラッキーだったわ。もっといろいろ話が聞けそうね」
「そうだな、また聞いてみることにしよう」

 アイシクルの夏は冬と比べれば寒さもましだが、それでも夜の冷え込みは厳しい。こうこうと燃える暖炉の前で、ヴィンセントとルクレツィアは白髪の老人の話に聞き入っていた。
「いつのことやらかはもうわからんが、はるか昔、地上に魔の者が現れ、地上の支配者になろうとしていた。邪悪な気をまとった彼らは破壊と殺戮を好み、地上のあらゆる生物を消し去ろうとしていた。地上がまさに闇に覆われようしていた頃、天より白い翼の者が舞い降りてきて、一斉に魔族に攻撃を始めた。両者の力はほぼ互角で彼らの戦いは長い間続いたが、少しだけ天使の方に分が有った。徐々に戦況は天使の方が有利となっていった」
「そうよね、やっぱり正義が勝たなきゃ」
 ルクレツィアが目を輝かせながら聞いている。
「天使に破れていった魔族は次々と彼らが元いた魔界に追い返されて封じ込まれたという。今でもどこかにその入り口があるとかないとか言われておる。そして、地上に生き残った魔族達はこの北の大地に追いやられ、天使との最後の激しい戦闘がここで繰り広げられた。ここで破れた魔族は石化されて封じ込まれたそうじゃ。そういえば30年ほど前に魔族の化石が見つかったという噂があったが、もしかしたら、本物かもしれん。ほほほ」
「へえー、だからこの地には魔族の伝説が伝わってるのね」
「そうじゃの、そしてこの地で破れた魔族の怨念とも言える邪悪な気が狼に宿り、ダークウルフとなった。そして彼らは今日まで種を保ち続けた。嘘か本当かわからぬが、あの並外れた生命力はただの生き物とは思えんからのう・・ダークウルフは魔の気が宿っているだけで所詮は狼じゃ。しかし、魔族そのものが生き残って子孫を残し、現在にもその末裔がおるという馬鹿げた伝説もあるのじゃ。そのために、罪もない人が魔族の末裔だと濡れ衣を着せられ命を奪われたという話もある」
「まあ、非道い!許せないわね、そんなの!」
 ルクレツィアが憤った。
「馬鹿げた伝説というのは本当なのかもしれん・・じゃが、それでも・・」
ローレンツの言葉が詰まった。彼はヴィンセントをじっと見つめた。
「お前さんの瞳はきれいじゃのう・・色こそ違うがあの子にそっくりじゃ。まるであの子が戻ってきたようだ。名前も同じ・・」
「ランカートさん、その少年の話を聞かせていただけないでしょうか」
「ほほ、同じ名前の少年に興味があるのかね。ちょうどよい、あの子は深く魔族の伝説と関わっていた。悲しい話だがの、聞いてくれるかね」
ヴィンセントとルクレツィアは顔を見合わせた。そして頷いた。
「お願いします」
「もう、50年以上前の話じゃ。当時の村の族長ハーデスティ・ヴァレンタインには一人娘がおっての、名前をシェリーと言った。栗色の長い髪と限りなく澄んだ碧色の瞳、とても美しい女性だったよ。と同時に優秀なハンターじゃった。ダークウルフを目の前にしてもひるむことなく勇敢に戦った。わしなど足下にも及ばん」
 ローレンツは遠い目で語る。
「ランカートさん、彼女のこと好きだったんですね」
作品名:末裔 作家名:絢翔