【テニプリ】ヒカリノサキ
音を立てて、リョーマがロッカーにぶつかり崩れ落ちる。左肩が酷く軋んで音を立てた。拳を握ろうにも今までと違う痛みに力が入らない。手塚は自嘲すると震える左腕を引き寄せた。
「…俺はお前の口からそんな言葉を聞きたかった訳じゃない。…俺は…俺自身にも……お前自身にも失望した。……出て行け。二度とお前の顔なんて見たくない」
見上げたリョーマが頬を抑え、驚いたように目を見開き、手塚を見つめた。手塚はリョーマを冷ややかに見つめ返した。
「…聞こえなかったのか?出て行けと言ったんだ」
「…くにみ…」
困惑したように見つめるリョーマから手塚は視線を逸らした。
「…お前が出て行かないのなら、俺が出て行く」
踵を返す。リョーマとはそれから会っていない。…そして、神の左腕と賞賛されたその左腕は二度とラケットを掴めなくなっていた。
「アイツは何も解ってない!」
だんっとコップを置いた手塚の目は完全に据わっている。酒もかなり入りかなり饒舌だ。
(…酔ってやがる…)
跡部は内心溜息を吐いた。酔っ払いの相手ほど大変なものはない。
「まあ、落ち着けよ。水、持って来てやるからよ」
そう言って跡部は立ち上がり、キッチンに入る。
(…越前、殴ったのはやっぱ、手塚だったか…。越前に手塚は殴れねぇしな。…まあ、事情は解らないでもないが…)
自分が手塚だったらやっぱり、越前を殴っていただろう。しかし、壊れかけていた腕は修復不能なまでに壊れ、リハビリのお陰で今はようやく肩まで腕が上がるようになったというが、左手には力が入らず未だに重いものは持つことが出来ない。手塚が払った代価は余りにも大きい。…跡部は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すとリビングに戻る。一升瓶を空にした手塚が跡部の飲んでいたブランデーの瓶に手を伸ばしていた。
「お前、飲みすぎなんだよ!そのぐらいにしとけ!」
瓶を取り上げ、変わりにミネラルウォーターのボトルを握らせる。露骨に手塚は不愉快な顔を見せ、跡部を睨んだ。
「そんなにのんでらいし、おれはよってなどいらい!」
語尾が既に怪しい。跡部は溜息を吐く。
「…解った、解った。それよりも、明日、部屋見に行くんだろ?…もう、寝ろ」
「…むぅ…。それもそうらな。…ねう…」
「おう。ベッドはこっちだ」
手塚を寝かしつけて、跡部は溜息を再度吐く。
「…馬鹿だな。お前も越前も…」
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故