【テニプリ】ヒカリノサキ
現地のスッタフから入ってきた試合結果。プロデビューして間のないリョーマにはまだスポンサーがついていない。プロになってツアーを回るには、金が掛かる。だから、資金面でリョーマをサポートしているが、この調子では投資が無駄になる。…そんなことよりも、一度は自分を負かした相手が無様に崩れ落ち、地を這う様など見るに耐えない。跡部は手塚を見つめた。
「…そうか」
手塚はそう言ったきり、背中を見せて黙り込む。その背中を跡部は睨んだ。
「…アイツ、本当にこのままじゃ駄目になるぜ?」
「…あれはそんなにヤワじゃない…」
そう自分に言い聞かせるように呟いた手塚に跡部は僅かに口端を上げた。
愛想が尽きたと言いながらも結局、手塚はリョーマを切り捨てることが出来ないでいる。信じているのだろう。リョーマがまた上を目指して、顔を上げることを。
(…やれやれ。しかし、どうやって、仲直りさせるか…だな)
今やリョーマの状態は試合の結果からも解るように最低最悪。怒りのあまりリョーマを殴り、距離を置いた手塚は昨日散々愚痴った結果、少しは冷静になれたらしい。別れるにせよ、何にせよ新しく一歩をお互い踏み出すためにも、二人で一度会って話をした方がいいだろう。その前に、リョーマに会っておかねばなるまい。今の状態のままなら、また手塚に殴られるのがオチだ。
「…まあ、越前のことはさて置き、…お前どうすんだ?」
「…どうするとは?」
ベランダからの景色に目を細めていた手塚が跡部を振り返る。それに跡部は肩を竦めた。
「今日からここに住むのか、取り敢えず実家に帰るのか?…どうすんだよ?」
「…実家には連絡は入れるが、戻らない。…母に心配されるだろうしな…。…暫く、お前の部屋に泊めて貰えないだろうか?」
「別に構わないぜ」
手塚の母、彩菜は手塚の母だけあって息子の機微には聡い。多少、頭が冷えたとは言え、心の中は晴れたとは言えない。そんな自分を母親に見せたくはないだろう。
「…ありがとう」
手塚はそう言うと、また外へと視線をくれた。青く晴れた空はどこまでも高く、繋がったその空の下にはリョーマがいる。
(…あの日に戻れるなら、もう一度…)
見上げた太陽は眩しく、手塚は目を細めた。
ニューヨーク。…20時。
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故