【テニプリ】ヒカリノサキ
その頑なさが反感を招いて、テニスを続ける限り手塚を悩ませる古傷に繋がった。あのときの光景を忘れることはないだろうと乾は思う。あのときの手塚の目はコートにいる者全てを、拒絶し、蔑んでいた。手塚の視界に写る自分が刺されたように痛かったし、何も出来なかった自分が悲しかった。
「…越前が来て、手塚は変わったよね。いい方向になんだけど…。…確かにさ、青学の全国制覇のために越前の存在は必要だったよ。そう思う。…でもさ、越前の為に…たかが後輩じゃない。なのにさ怪我を押してまて試合したって、知ったときには本当に腹が立ったよ。青学の全国制覇はみんなの共通の夢だったけど、一番、その夢を叶えたかったのは手塚なのに、何でそんなことをするんだって」
知ったときには愕然とした。それと同時に腹立たしかった。そうまでして手塚に必要とされる越前に嫉妬したのだ。あのときの自分は。それが自分ではないことに。
「…手塚はそういうヤツだ」
「…解ってるよ。普段は結構、自分中心なクセに、最後には個じゃなくて全を取るだから、手塚は」
「…そういうヤツじゃなきゃ、惚れなかったんだけどな」
乾は溜息を吐く。
「…同感。…って言うか、周りに可愛い女の子もいっぱいいて、僕を好きだって言ってくれる女の子もいたのに、どうして手塚しか見てなかったんだろうね。僕は」
不二は小さく溜息を吐く。それに乾は苦笑を浮かべた。
「恋は盲目、だな」
「…やっぱりそれかぁ。それなら、早くこの叶わない夢から醒めたいよ」
「まったくだ。…で、」
「何?」
「こんなことを話に来た訳じゃないだろう?」
氷の溶けたグラスの中身を飲み干して、乾は肘をついた。
「…まぁね。…手塚と越前に何かあったみたい何だけど、何があったか知らない?」
穏やかにたたえた微笑がすっと口元から消える。乾は不二を見つめた。
「…授与式の後、俺はマスコミの対応に追われてたからな。その後、優勝したにも関わらず不機嫌な顔の手塚が何故か控え室の外で腕を押さえて痛みを堪えて立ってるし、試合で痛めたのかと慌てて病院に連れて行ってら、医者にはもうラケットは握れないと宣告されるし…告知された本人より血の気が引いたよ。…ま、何かあったとすればそのときだろうな。他のスタッフに越前が授賞式後、控え室に訪ねてきたと聞いたから」
「ねぇ…手塚に越前と何があったか聞いた?」
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故