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【テニプリ】ヒカリノサキ

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「……跡部、乾、話しておきたいことがあるんだが」
「?、何だよ?」
近くにあった椅子を跡部は引き寄せた。
「今季の全英オープンが終わったら、引退しようと思っている」
淡々と告げられた言葉に跡部も乾も言葉を見失い、手塚を見つめる。手塚は平素と変わらず、表情は皆無で…跡部は眉間に皺を寄せた。
「…古傷か?」
真っ先に思い浮かぶ理由。乾は眉を寄せた。トレーナーとして選手の体を管理するのが仕事だと言うのに、手塚の体から発せられていた小さなシグナルに気づけなかったとしたら、自分はトレーナー失格だ。
「いや。肩は信じられないくらいに調子がいい…問題ない」
手塚は否定し、首を振る。
「だったら、何故?」
乾は手塚を見つめる。誰よりもテニスが好きで、テニスさえ出来れば何もいらないと言っていた手塚が「引退」の二文字を口にするのが信じられなかった。プロに転向して、まだ四年にも満たない。頂点へと登り始めたばかりだというのに、それはあまりにも早すぎる決断に思えた。
「…今はいいが、いずれ酷使して使い物にならなくなるのは目に見えているしな。なら、ラケットを握れるうちに引退したい。世界という舞台の上でなくても、テニスはテニスだ。後は好きな相手とだけ思う存分、テニスが出来ればそれでいい」
左肩を手のひらで包むように撫でた手塚に跡部はただ眉を寄せている。
(…跡部は負い目のように思っているのか…?)
思い出すのは遠い夏の日。あの日の光景は今も目蓋に焼き付いている。肩を押さえ、膝を着いた手塚。それを今と同じような表情で跡部は手塚を見つめていたが、肩を竦めた。
「…お前の決めたことだ。反対はしねぇよ。…でもまあ、最後にするって言うんなら、悔いだけは絶対に残すなよ」
「あぁ。解ってる。有難う」
ふっと手塚が浮かべたのは何かから解き放たれたような、乾が初めて目にする柔らかな微笑だった。






「復学か…ってゆーか、何で手塚は跡部を頼るワケ?」

氷が小さく溶けたグラスを揺らし、不二がぼやく。それに乾は溜息混じりに眼鏡を押し上げた。
「…スポンサーだったしね。…それに幼馴染みらしいから」
「…ふぅーん。…越前も跡部には懐いてるし、何か先輩としてやるせなさを感じるね」
「…確かにな。でもまあ、越前にしてみれば俺達は目の上のタンコブ…だっただろうしな」