【テニプリ】ヒカリノサキ
それに反論もせず、リョーマは跡部に興味を失ったかのように視線を逸らし、ラケットを緩く握りなおした。それに鼻白んだ跡部は鼻を鳴らした。今のリョーマに熱かった夏の日の面影は微塵もない。それに無性に腹が立つ。最初は手塚が自分に言ったリョーマに対する想いを伝えれば、リョーマは立ち直るだろうと単純に考えていた。…でも、それでは何も変わらない。今のリョーマに手塚の想いは伝わらない。
(…チッ。昔からコイツらに関わるとロクな目に遭わねぇって言うのによ…)
跡部は口端を引き上げた
「…手塚もとんだ見込み違いだったな。…ま、こんな有様じゃ見限って当然だな」
跡部の言葉にリョーマは顔を上げる。向けられた虚ろな視線に跡部は顎を上げた。
「壁相手じゃ、つまらねぇだろ?相手してやるよ」
コートに入っていく跡部にリョーマは何も言葉を返すことなく、追従する。ネットを挟んで向かい合い、跡部はリョーマを睨んだ。
「…行くぜ」
久方ぶりに手にするグリップとボールの感触に俄かにあの日の熱が戻ってくる。…テニスから離れて、もう数年経ったというのに、この躰はまだ覚えてる。
「…!」
サーブは弾まず、リョーマの足元を駆け抜けて、壁へと当たり、転がった。
「もう、一回、行くぜ」
呆然と足元を転がっていたボールを見やり、リョーマは跡部に視線を向ける。それにニヤリと笑みを返し、跡部はサーブを打った。それにリョーマの躰が反応し、動く。
「甘いぜ」
緩いリターンを返して、叩き込むように打ち返す。それにリョーマは追いつけず、転がるボールを見送った。
「…おいおい、素人相手に情けねぇな」
ラブゲームで呆気なくゲームを先取した跡部はリョーマを見やった。
「…お前、今まで、何のためにテニスを続けて来たんだよ?」
ラケットを肩に、跡部は首元を緩め、仰ぐ。そして、小さな溜息を吐くと真剣な眼差しでリョーマを見つめた。その言葉にリョーマは虚ろな視線を向けるだけ。跡部は溜息を吐いた。
「…賭でもすりゃ、やる気になるか?」
すぐに不真面目な口調で口端に皮肉げな笑みを浮かべ、あの日さながらの悪役を演じるように跡部は前髪を掻き上げリョーマを見やった。
「俺が勝ったら、お前、テニスを辞めろ。手塚にも二度と会うな」
「跡部!」
それを聞いた不二が非難するように跡部を見やる。跡部はそれを一瞥し、リョーマを見やった。
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故