【テニプリ】ヒカリノサキ
四大会の内、三大会を制覇し、日本人としては初めてランキング4強に手塚は入った。CMにもいくつか出演し、顔が売れている。有名だと自覚がないのか、手塚は普段通りで逆に跡部の方が回りを気にする。
「普通にしていれば、存外気づかれないものだ」
しれっとそう言う手塚に跡部は溜息を吐く。…手塚はこういう奴だ。
「そーかよ。…で、お前、飯は?」
「まだ、だ」
「んじゃ、何か食いに行くか」
「ああ。出来れば、久しぶりにうな茶が食べたいんだが」
「…はいはい…解ったよ」
マイペースは相変わらずな幼馴染みに跡部は肩を竦めた。
手塚の希望通りに都内の鰻専門店に入り、食事を済ませる。
久方ぶりに口にした好物に手塚の顔は満足気で、こんなもので上機嫌になるのだがらお手軽な奴だと思いながら、跡部は口を開いた。
「…で、お前、今日は実家に帰るのか?」
「…いや。実家には帰ると連絡していない」
「じゃあ、ホテル予約してんのか?」
「いや」
…行き当たりばったりに帰って来たらしい。手塚らしいと言えばらしいが行き当たりばったりにも程がある。
「…今から、予約もねぇしな。面倒臭いから、俺ん家に来い。明日、部屋、案内してやるよ」
「助かる」
微笑んだ手塚にもしかして、確信犯か?…一瞬思ったが、跡部は口には出さず、茶を啜った。
自宅に場所を移し、交互にシャワーを浴びて、一息吐く。簡単なつまみを作り、手塚の為に買ってきたような日本酒を開けた。…まさか、ずっとライバルだと思っていた薄情な幼馴染みとあの頃はこううやって酒を酌み交わすことなど、想像もしていなかったし、何ゆえ自分が胡瓜の浅漬けを切っているのかも解らない。世の中、一寸先は何が起こるか解らない。
「…と言うことがあってな。…聞いてるのか、跡部?」
そして、無口だと思われている手塚は酒が入るといつもは開かない口も簡単に開いて饒舌になるのを一体、どれだけの人が知っているのだろう。滑らかに動く手塚の唇を見つめ、跡部はブランデーを舐める。
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故