【テニプリ】ヒカリノサキ
「…様子がいつもと違ってかなりおかしかったな。マネージャーが心配してたぜ…って言うか、…お前、」
リョーマの様子がおかしくなる理由の大半…九割は手塚に関係しているのは、付き合いの長さで解る。今回もそれだとするならば、考えられる理由はひとつしかない。
「…越前に全英で引退するって、言ったか?」
「…いや。引退のことは、マネージャーの乾とお前にしか言ってない」
それが何だと口を開いた手塚に跡部は眉間に皺を思い切り寄せ、脱力した。
「何で、越前に言ってねんだよ?奴はてめぇの恋人だろ?」
「恋人の前に、ライバルだ。ライバルに私事を話す義務はない」
「…ライバルって…、そうだけどよ…あれがお前との公式試合の最初で最後になるなんて、越前にはショックだったんじゃねぇのか?」
「…ショックだったのは俺の方だ。…引退することをあんなに詰られるとは思わなかった」
眉を寄せた手塚に跡部は溜息を吐いた。
「お前が大事なことをちゃんと言わないからだろ」
自分がリョーマの立場だったなら、手塚の引退はショックだっただろうと跡部は思う。つい、責めるような言い方に手塚はムッとした顔で眉間に皺を増やした。
「言う必要がないから言わなかった。…言ったら、アイツは俺の左肩を気にして、試合にならなくなるだろう」
「…ま、そうだな…」
手塚はアマでもプロでも度々、古傷に泣かされてきた。それでもここ数年は再発もなく、順調にポイントを稼いできていた手塚が引退を口にすれば、古傷と結びつけざる得ない。手塚から引退の二文字を聞かされたとき最初、自分もそれを疑ったのだ。
「…プロの世界に未練がないと言えば、嘘になるが…全英のトーナメント表にリョーマの名前を見つけて、リョーマが最後の相手になるなら、勝っても負けても最高のものになると思ったから、引退を決断出来た。……お前には前にも言ったが、余力があるうちに引退したかったからな…」
前に手塚が言った言葉が跡部の脳裏を過ぎる。ラケットを握れるうちに引退したい。後は好きな相手とだけ思う存分、打ち合えればいい。そう言って、手塚は微笑んだ手塚に引退を撤回しろとはい言えなかった。
「…怪我の再発を恐れて、勝ち進んで行くのに俺は限界を感じていた。リョーマと当たれるなら、悔いは残らないと思った。そして、リョーマとの試合は最高のものになった」
作品名:【テニプリ】ヒカリノサキ 作家名:冬故