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子供の領分

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 アメリカが花畑に到着したその時、イギリスはアメリカの家へとようやく着いたところだった。
「アメリカ! 遅くなって悪い!」
 必死な形相でノックもせずに玄関の扉を開け、足早に中へと入る。イギリスが右手に持っていた紙袋が扉の枠に当たり、ごつんと低い音を立てた。アメリカへの土産である紅茶だ。
「アメリカ?」
 普段ならばイギリスが来ると同時に駆け寄ってくるアメリカが来ない。イギリスは眉を顰めて、可愛い弟の名前を呼んだ。だが、暫くしても返事はなく、静寂が耳をつくばかりだ。下巻から程近いリビングを覗いてみるが、やはり人影がない。
「もしかして寝てんのか……?」
 可能性としては薄いと思いながらも、小さく呟く。たまにだが、アメリカは家の中で昼寝をしている事がある。きっと今日もそうに違いないと、僅かにだが湧き上がってくる不安を宥めながら寝室へと赴いたが、そこにアメリカの姿はなかった。
「アメリカ……?」
 空っぽの寝室に、更に不安が煽られる。イギリス自身、自分が心配しすぎている事は解っていた。アメリカはまだ子供だが、以前ならばともかく、今は一人歩きが出来ないほど幼くはない。それに第一、此処はアメリカ自身なのだから、アメリカを傷付ける存在は滅多に居ない。そこまで理解していながらも、イギリスは自分の不安を押しとどめる事が出来ないのだ。
「まんま、子離れできない親だよな」
 頭痛を抑えるように額へ触れながら、苦い口調でイギリスは呟いた。自分に対する呆れのあまりに溜息が出てくる。
 取り合えず寝室に居てもしかたがない。踵を返して、リビングへと戻る。部屋の真ん中にある机へと歩み寄り、紅茶を入れた紙袋を置いたところで、イギリスは机の上に置かれた兵隊に気付いた。若干いびつな表情をしたこの人形は、この前自分がアメリカへと渡したものだ。
「一応気にいってくれてるんだな」
 アメリカは興味のない玩具はすぐにしまってしまう。こうやってリビングにあるという事は、おそらく気に入ってくれたのだろう。イギリスはじんわりと広がっていく嬉しさに目元を緩めた。慣れないことをした甲斐があったというものだ。
「……ん?」
 人形を手に取ったイギリスは、その下に何やら裏返されたメモ用紙がある事に気付いた。机と似たような色のせいで先程は見落としてしまったのだろう。
 なんだろうかとイギリスは首を傾げながら、人形を摘んでその紙を手に取ると、そこには子供らしい字で書かれた伝言があった。急いでいたようで、少々アルファベットが横に走り気味だ。
「なんだ、森にいるのか」
 アメリカの行き先がわかり、イギリスは無意識にほっと息を吐いた。胸の底を占領していた不安がだいぶ軽くなった事が解る。アメリカの家の裏にある森には、イギリスも何度か行った事がある。そこで会った妖精たちは、イギリスの国に居る妖精たちとはまた違う姿をしていたが、とても優しく面白い性格の者達ばかりだった。彼らならばアメリカを守りこそすれ、悪さをする事はないだろう。
「ちょっと、座るか」
 安心した瞬間に、忘れていた疲労がどっと吹き出した。椅子を引いて、ずるずると腰掛ける。
 イギリスは昨日、今日の御前会議に使う資料の点検でほとんど寝ていないのだ。アメリカまでの船の中で一応少しは仮眠を取ったが、波で揺れる船の中では完璧に疲れが取れるはずもない。
「……だめだ、眠い」
 下に落ちようとする瞼を意志の力で必死に止めようとするが、どうにも厳しい。眠気を払うように頭を振ってみるが、一瞬だけ眠気が飛んだ気分になるだけで意味はなかった。
「おい、お前ら、アメリカが家の近くまで来たら俺を起こしてくれないか。あいつにだらしない所を見られたくないんだ」
 開け放たれた窓の外で浮いていた妖精達へ、イギリスは声を掛けた。可愛らしい姿をした妖精達は、突然声を掛けられたことに最初こそ驚いたようだったが、ひそひそと仲間内で話し合ってから、にっこりと微笑んでイギリスの言葉へ頷いた。了承の返事だ。
「ん、有難う。お前ら、やっぱ良い奴らだな。……それじゃあ、悪いけど、頼んだぞ」
 イギリスも妖精達へ笑顔を返し、軽くひらりと手を振る。起こしてもらえると思って緊張の糸が切れたのだろう。吸い寄せられるように机へと突っ伏し、それから暫くしないうちにイギリスは静かな寝息を立て始めた。
作品名:子供の領分 作家名:和泉せん