金魚
もしここで素直に頷いておくことで、アルフレッドの心を変えることが出来るのならば万々歳ではないか。たった一言発するだけで良い。この安い首を一つ、縦に振りさえすれば良いのだ。それだけで目の前の存在が手に入るのならば、そんなに簡単な仕事は無いじゃないか。
それなのにちっぽけな自尊心が邪魔をして、結局アーサーは肯首することが出来なかった。
「ふーん……そっか」
しかしアルフレッドは、己の主人の心情を看破していると言わんばかりに相槌を打つと、凡そ子供が浮かべてはいけないような、暗澹とした大人びた微笑を唇に乗せた。
「いいよ。ずっと一緒にいてあげる」
何かを悟り切ったように頷き、囁くような口調で決意を口にする。
「俺がずっと傍にいてあげる。だから、君は寂しくないよ」
そう言って、とても綺麗な顔で微笑った次の日に。
アルフレッドは失踪した。