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多様性恋愛嗜好

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 翌日、放課後。人の気持ちになんてお構いなしに日は沈み、また昇るものである。極々普通の一高校生である俺は学校をサボることも、ハルヒに逆らうこともできず、いつも通り部室で、いつも通り古泉と顔を突き合わせてボードーゲームで時間を潰していた。
 ……ああ、一体何をやっているんだろうね、俺は。今日はハルヒも長門も朝比奈さんもいるので突っ込んだ話なんてできやしない。いや、そもそも話すこともないだろう。古泉の真意なんて聞きたくもないし、こいつも俺が聞いたところで正直に答えるとは思えん。聞きたくもないことはべらべら勝手に喋るくせに、俺が聞きたいと思ったことはいつも回りくどくはぐらかすのだ、この男は。
 その当人である古泉一樹の様子はどうかというと、一見するといつも通りである。あくまで一見するとであり、総合的に見ると様子がおかしかった。具体的に言うと俺と目が合うと微笑む。……と言うといつも通りじゃねぇかと言われそうだがそうじゃない。微笑みの種類が明らかに今まで違うのだ。今までのこいつの無駄に振りまいていた笑顔が形だけのものだったのだとつくづく実感した。穏やかで、優しく、愛おしげに。じんわりと滲み出る感情にどう対応すれば良いのだろうか。俺だって、こいつのことは嫌いではないのだ。気色悪い、やめろと切り捨ててしまうには……こういっちゃ何だがあまりに惜しい。あいつは恋愛感情で俺を好きだと言ってはいたがそういった熱っぽさを感じさせないのも、どうにも無碍にできない理由の一つだ。他の人間、特にハルヒの目が向いてる時はさっと感情を隠してみせるのはさすがと賞賛してやるべきかね。
 結局何事も起こらずに下校の時間になった。昨日とは違い前方にはハルヒと朝比奈さん、そのすぐ後ろに本を読みながら長門が歩いている。そこから少し距離を置いて俺と古泉が懲りもせず横並びで最後尾を務めていた。勿論、手など繋いではいない。
「おい、古泉」
 前を歩く女性陣に聞こえないようなるべく小声で話しかける。「はい?」とこちらに顔を向けた古泉の表情はやっぱり正の感情が滲んでいる。その顔を見た途端、自分が何を言いかったのか頭から抜け落ちてしまった。
「……今日は手、繋がないのか?」
 それで出てきた言葉がそれかよ俺! きょとんと目を丸くした古泉の顔を認識した瞬間、猛烈に頭を抱えて逃げたくなった。だが昨日とは違い今日はハルヒがいる以上、逃げ出す訳にはいかない。何故勝手に先に帰ったのだと追求されて、良い言い訳が思いつくだけの頭の余裕はない。それで古泉とのことをぽろっと零しでもしたらえらいことだ。そうじゃなくてもハルヒに詰め寄られるのは遠慮したいところだしな。
「いやあ、あなたからそう申し出て下さるのは大変光栄なのですが、涼宮さんがいつ振り返るかわからない状況で手を繋ぐのはさすがに僕も、ね。彼女に見つかって誤魔化しきる自信も度胸もありません」
 残念ですとほざく古泉の後頭部を今度こそぶん殴ってやった。痛いですよと文句を言ってくるが平手なのを感謝してほしい。
「昨日は堂々とこっちの手を捕まえてきやがったが、さすがのお前もハルヒに見つかるのは困るのか」
「困ると表現しても間違いではありませんが。色々あるのですよ」
 その色々を今すぐ吐けと言ったところで、曖昧に笑うこの男に通用しないだろう。結局またむっつりと黙り込む羽目になった。言わなければならないことや、聞かなくてはならないことが沢山ある気がするが、肝心の言わなければならないことと聞かなくてはならないことの中身がちっとも思いつきやしない。
作品名:多様性恋愛嗜好 作家名:くまさん