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多様性恋愛嗜好

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 その日から、古泉の猛攻が始まった。翌日、昼休みに人気のない場所に呼び出され「お弁当交換をしましょう」と弁当箱片手に言われた時はどうしようかと思ったね。余談だが古泉の弁当は美味かった。……ああ、交換したさ。「駄目ですか?」と子犬のような目で見つめ懇願され、気づいたら古泉の弁当が手元にあった。あと、薄々気づいてはいたが弁当はヤツの手作りだったらしい。
 それから、二人きりの時に指を絡めてくるなんてしょっちゅうだ。俺に気取らせずするりと手を取るとがっちりとからめとる。そうしたら最後、俺が手を出そうが口を出そうが絶対に離れない。あいつのあの手腕は一体なんなんだ。顔へのキスは今のところ、なんとか断固拒否に成功している。かわりに絡めた指にキスされたが。……まあそれは必要最低限の犠牲なのだと思っておこう。
 部室にいても誰がいても所謂愛情というものが透けて見えるむずかゆい眼差しで見られ、周囲の人間に怪しまれない程度にともにいる時間を作ろうとする。少しでも好意的な言葉を投げかけてやれば心底嬉しそうに笑ってみせる。ハルヒにも誰にも気取られることなく俺にだけ感情が伝わってくるということは、多分古泉がわざとそうしているのだろう。告白される前は、そんな感情を感じることはなかったしな。
 一番の問題は、そんな古泉を悪くないと思って拒否しきれていない俺自身だろう。古泉をそういう意味で好きなのかと問われれば違うのだろう。けれど、いい加減にしろと古泉を拒絶することができない。本気で拒絶すれば古泉は引き下がるだろう。だからこそ、決定的な一言が言えなかった。
 ……そして、だからこそこんな状況になっているんだろう。
「どうかされましたか?」
 テーブルを挟んで向側で古泉がやたらと良い笑顔で嬉しそうにこちらを眺めている。テーブルの上には白いご飯に肉じゃが、味噌汁にお浸しが並べられている。俺の口先には箸で摘み上げられたじゃがいもが突き出されている。その箸の持っているのは……目の前のイカレ男であった。
 何故こんなことになっているのかというと、話は今朝までさかのぼる。一週間ぶりの休日で、今日明日と団活もないという珍しい状況だった。おかげで思う様ベッドでだらだらと惰眠をむさぼっていたところ妹に文字通り叩き起こされた。一体何事かと問いただすと古泉が家までやってきているという。慌てて一階におりれば、お袋とにこやかに話をしている古泉の姿。何しに来たと問いかける前にお袋から「今日、古泉くんの家に泊まりで勉強を教えてもらいに行くんですって? そういうことは先に言っておきなさい」とのお言葉。勿論、初耳である。俺の与り知らぬところでお袋と妹を味方につけた古泉に一言物申す暇さえ与えられず、泊まりに必要な荷物とともに家を放り出された。
 古泉の家以外行く当てもない俺は見事古泉の策略通りに古泉の家に転がり込むはめになった。せめてあらかじめ俺に言っておいてくれとの至極まっとうな俺な発言は、「逃げられては元も子もないですから」と笑顔で一刀両断にされた。
 そうして案内された古泉の家は高そうなマンションの一室だった。長門の家ほどではないが。内装はシンプルながらなかなか洒落ており、あまり高校生の部屋という印象を感じさせない。モデルルームのようですらある。だが、古泉らしいといえばらしいのだろう。
 部屋に通されたあとは、まさかの勉強会だった。勉強はお袋を騙くらかすための狂言じゃなかったかと反論したが、「じゃあ僕の部屋で二人きり。この状況で一体何をしましょうか」とそっと擦り寄って囁かれたら選択肢はひとつしかない。全く、学校以外でこんなに勉強したのは夏休みの宿題を片付けた時以来だね。ぴとりと横に寄り添ってあーだこーだ口出ししてくるのにはまいったが、それでも物事を教えるのは得意らしい。気が散って仕方の無いような状況でも一人で勉強する時と比べれば格段に進歩状況が違った。
 長い長い勉強会が終わった時にはもう晩飯時だった。「ご飯、用意しますね」と立ち上がった古泉は台所へ向かい、あらかじめコンロの上に用意してあった鍋に火をかける。俺が何をするまでも無くテーブルの上に食事が用意されていった。
作品名:多様性恋愛嗜好 作家名:くまさん