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多様性恋愛嗜好

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 ようやく話が戻ったが、こいつの手料理を食うのは良いんだ。前に食った手作り弁当も美味かったし、今目の前に並ぶ料理も美味そうだ。実際、美味いのだろう。男の手料理と思えばありがたみは薄れるが食わせたいというのならば食うし、感謝もしようじゃないか。だが、これはない。
「おい」
 我ながら、地を這うような声が出たと思う。その声からこちらの心情を正確に読み取ったであろう男はすっとぼけるように小首をかしげてみせた。
「はやく食べないと冷めちゃいますよ?」
 挙句の果てに言った台詞がそれか。ふざけんな。
「はやく食べさせたいならこの手をどけろ」
「食べるなら今口元にあるそれを食べれば良いじゃないですか。ほら、口を開けて?」
 あーん、と再度嬉しそうに手に持ったじゃがいもを口先に押し付けてくる。いい加減腹も減った。目の前からは食欲をそそる良い匂いがする。だが、だからといってここで負けてはいかん。散々古泉の奇行を受け入れといて今更何を言ってるんだと思われようがこんなこっ恥ずかしい真似できるか!
「誰がそんなことするか! いいからさっさと手をどけろ! 一人で物も食えない子どもじゃないんだ、頼むから自分で食わせてくれ」
 勢い良く怒鳴りつけたのはよいが、途中から懇願するみたいになってしまった。だがそれくらい切実なのだ。勘弁してくれ、マジで。
「わかりました、そこまで言うのであれば」
 もっとごねるかと思った俺の予想に反し、古泉はあっさりと手を引いた。その様子にほっと胸を撫で下ろした。
「……むがっ!?」
 と、その直後に目にも留まらぬ速さで顎を捕まれ、開いた口の隙間からじゃがいもを捻じ込まれた。吐き出しそうになるのを堪え、何とか咀嚼して飲み込む。
「てめぇ……」
「美味しかったですか?」
 にっこにこと笑顔で聞いてくる。こいつの笑顔に殺意を抱いたのは久しぶりだ。
「美味しかったですかじゃねーよ! 何がわかりましただ!」
「実力行使するしかないとわかったのでわかりましたと言ったまでです。恋人同士で『はい、あーん』ってやるのはロマンじゃないですか。本音を申しますと僕も男ですからするよりされたいのですが、無理は言いません」
 もう充分に無理を言っている。それに恋人同士は相手の顎掴んで無理やり物食わせようとしねーよ。つーか俺とお前は恋人同士でもなんでもない。
「あはは、それはそれ、これはこれです」
 朗らかに俺の苦言を受け流すと古泉は何事も無かったように自分の分の料理を食い始めていた。怒りに打ち震える俺を見て、食べないんですかなどと能天気にも問いかけてくる始末だ。もっとちゃんと言ってやるべきだ。気色の悪いことをするな。迷惑なんだ。……いい加減、もうやめよう。言うべきことはいくらでも思い浮かんだが、けれど喉元で引っかかって声にはならない。
「……食う」
 結局言えたのはこれだけだった。古泉の、谷口以上のアホさ加減に呆れて何かを言うのも億劫なだけなのだと自分に言い聞かせ、改めて肉じゃがに手を付ける。肉じゃがは、いっそ腹立たしいほどに美味かった。

作品名:多様性恋愛嗜好 作家名:くまさん