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多様性恋愛嗜好

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「どうしました?」
 どうしましたじゃない。どういうつもりだ? 覚悟を決めるしかないかと思っていた矢先にこうもあっさり退かれると逆に困る。
「おやすみのちゅー、です。毎夜一人寂しく寝ているところ、今日はあなたが隣にいるんです。なら寝る前に、これはしとかないと」
 見上げる古泉の顔にさっきまであったはずのあの熱っぽさはどこにもない。こちらをからかうようにくつくつと笑い、「もしかしてえっちなことでもすると思ってました?」などと嘯いてさえいる。……こいつは。
「……ああ、そうだな」
 古泉の言葉に肯定してやれば驚いたようにこちらを見やる。その一瞬の隙をついて古泉の右手を取り、渾身の力で引っ張ってやればあっけなく古泉は布団の上に転がった。
「ちょ……」
 困惑している古泉を無視して今度は俺が古泉の腹の上に馬乗りになってやった。さっき古泉にされたように古泉の手首を掴むと頭上に持っていき布団の上に縫いとめた。
「あ、あの……」
 古泉は心底困ったように俺を見上げる。今までの余裕綽々だった表情が嘘みたいだ。こういう表情は悪くない。
「やりすぎちゃい、ましたか? ちょっと調子に乗りすぎてしまったみたいですね」
 ごめんなさいと目を伏せて殊勝に謝ってくる。だからどいてください、とも。……誰がどいてなんてやるものか。俺は怒ってるんだ。
「……じゃあ、どうするんですか。ずっと僕の上に乗っかってるつもりですか。それとも、さっきの続きでもしますか?」
 一瞬で反省している様子は消え失せ、偽悪的に笑うと挑発するような眼差しを投げかけてくる。
「ああ」
 躊躇せず頷いてやれば今度こそ完全に固まった。見開いた瞳が零れ落ちそうだ。首筋に顔を埋めるとシャンプーの香りに混じって微かに古泉の匂いがする。どこか甘いそれを鼻腔一杯に吸い込み、首筋に唇を当てぺろりと舐めあげる。ひゅっと息を吸い込む音と同時に身体が面白いくらいにびくんと跳ねた。ここまできてようやく拘束した古泉の両手が暴れだし、足もじたばたと宙を蹴りだす。油断してると振り切られそうだ。この馬鹿力め。
「い……ぐ、」
 今度は首筋に歯を立て、思いっきり噛み付いてやった。痛みをこらえるような呻きが聞こえ、抵抗も止んだ。暗闇の中でも赤くなってるのがはっきりと分かる噛み跡に、大人しくなったご褒美として労わるように舌を這わせる。震えているのか、触れ合った箇所から振動が伝わってきた。
「な……なんで、あなたがこんなこと。あなたがこんなことするなんて、おかしいじゃないですか。全部、僕からのはずなのに。それだけの、はずなのに」
 パジャマのボタンに手をかけると蚊の鳴くような声が聞こえた。俯いていて、古泉の表情はよくわからない。
「お前が勝手におかしいことしだしたんだろ。俺がやって何が悪い」
 自分だけの特権だと思ったら大間違いだ。散々人のこと好き勝手しやがって。
「……だって、あなた、言ったじゃないですか。最初に。僕とは付き合えないって。好きじゃないって。……それを知っていて、けれど今まであなたに甘えてきました。少しだけのつもりでしたが、あれこれ言い訳をつけてずるずると期限を先延ばしにして。でも、あなたがそこまで嫌だったのならもうやめます。元の古泉一樹に戻ります。だから、やめましょう」
 こんなことしたって、あなたは楽しくないでしょう? 顔を上げた古泉は、やっぱり笑っていた。穏やかに、少しだけ寂寥の念を覗かせて。
 ……楽しいか、楽しくないかの二択なら答えは決まっている。楽しい。ああ、楽しいさ。余裕に満ちたふてぶてしい笑顔をぶち壊して、おろおろしている古泉を見るのは自分で思っているよりずっと楽しかった。あの日以来、俺に懐いて纏わり付いてくる古泉のことも、鬱陶しいし面倒くさいしにやにやと俺をからかってくるしでもう勘弁してくれと頭を抱えたのは数え切れないほどあるさ。だが、それ以前の卒の無い古泉と比べれば一緒に過ごしていて楽しかった。そうだ、そんな古泉のことが俺は嫌いじゃない、どころか好ましいとさえ思っていたのだ。だから元の古泉一樹になんて戻られても俺はちっとも嬉しくない。
 古泉の告白された、あの時。俺は古泉の思いはあっさりと切り捨てた。理由は簡単だ。俺も古泉も男だから。だが、それ以外に断る理由はなかったのだろうか。気色悪く思ったとか、古泉と恋人だなんて冗談じゃないと思ったとか。何でも良い、古泉個人に対する気持ちは何かなかっただろうか。今思い返しても、そういうマイナスの気持ちがあったかどうか思い出せない。
 そして、何より。一番肝心なことだが、俺は今、古泉に。さっき首筋に噛み付いたせいだろう、瞳が涙で潤んでいる。唇はうっすらと開かれ、もう笑顔を保てていない。あどけなく俺を見上げてくる古泉に、俺は――。
作品名:多様性恋愛嗜好 作家名:くまさん