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恋のはじまり

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キッチンを出て、角を曲がり休憩室に向かおうとしたその角で、小さい女の子がぷるぷると震えながらこちらを見つめている場面にかちあった。何か見てはいけないものを目撃してしまったように、小さい体が小刻みに震えていた。
何故だろう、ものすごく嫌な予感がする。
そしてこの予感は過去にあったデジャヴュを俺に思い出させ、より一層気分が重たいものとなった。
「…相馬さん、私は見ました。そ、相馬さんとさ、さ、佐藤さんが、き、ききき、き」
あーもう、ほらやっぱりきた。最悪だ。しかもよりによってまた種島さんだ。さっき山田さんが言っていたように、壁に障子に天井に、あらゆるところに何が潜んでいるかはわからない。だから俺は嫌なんだ、不用意な行動は身を滅ぼす。見ている立場から見られる立場に代わると思うとぞっとする。
「はーい種島さん、世の中には知らなくていいことがたくさんあってだね、例えばの例でいうと」
もうこの話題を長引かせるのも嫌なんで、初っ端から切り札の紙切れを懐から抜き出す。ぴらぴらさせたそれに、最初はキョトンとした顔だった彼女も、その紙が何かに気付いた時には先程よりも大きな衝撃に包まれていた。
「ああ、それは…!」
「ね、誰にもばれたくないよね、俺も出来ればばらしたくはないよ。さっきのこと、ばらされたくない気持ちでいっぱいだからね。この意味分かるよね」
こくこくこく。涙目で高速に首を縦に振り続ける彼女の頭をふわりと撫でると、彼女は一歩体を退けた。たぶん彼女にとっては無意識なんだろうけど、その判断は間違っちゃいない。たぶん俺は本当に作り物の笑顔をしているはずだから。
「うん、種島さんがいい人で良かった。じゃあ俺休憩入るね」
「うん…いってらっしゃい~…」
力なく振られた手には解放されたことによる安堵で緊張がほぐれた様子が見て取れた。ちょっと怖がらせちゃったかなと反省の気持ちもあるけれど、今はそれどころではなかったのだから仕方ない。

「…はぁ。全く佐藤くんはデリカシーってものがないんだから」
種島さんの弱みである紙切れをくるくると指で弄びながら、一人休憩室でごちる。最近、佐藤くんがよく分からない。なんだってあんなことを平気で出来るのか。
「…なんていうか著しく調子狂うよね」
俺はこの店の一方通行の恋愛模様が嫌いじゃない。それは、自分も含めてだ。俺に言わせれば片想いが1番幸せだ。ちょっとしたことにも一喜一憂出来て楽しいし、見ている分にも可愛くて微笑ましくて、さらにいうとその先の展開を想像するのが面白い。
が、今それが崩れているような気がしてならないのだ。
決して俺には振り向かない佐藤くん。そんな佐藤くんを慕って、今では家にまで入り浸ったりしているけど
「キス…なんてまるで恋人みたいだなぁ」
言葉にすると意外にも重たくずっしりしたそのなんともいえない想いに、今まで佐藤くんは轟さんといった一つの安定要素に甘えていたことがはっきり分かってしまった。そして、今日それがぐらりと傾いたことにも。
気づきたくなかったなぁ…
溜息とともに一呼吸置くとポケットにしまった銀色の鍵の存在が俺をもっと困惑させる。
「今日、山田さん誘っちゃおうかな…むしろ轟さん誘っちゃおうかな…そしたら佐藤くん機嫌悪くなるだろうなー…は、はは、ははははは」
この後の展開にどんな布陣を持ってこようとも、今の俺には渇いた笑いしか出てこなかった。




作品名:恋のはじまり 作家名:いるあ