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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe13 会わなければ、忘れられたのに。


「C4……!?」
「ご機嫌麗しゅう、オルハ様。大きくなられましたね」
 言って彼は右手を大きく振り上げてから、前で抱えるような仕草をして大きくお辞儀をした。外見は昔と変わっており胸と肩の鉱山のトレードマークも無いが、ボディパーツやその顔には見覚えがある。何よりも隈取をしているキャストなどそういない。オルハにはそれが誰であるか、すぐに判断できた。
「まさか……こんな所で会うとはね」
「オルハ様、世の中に"偶然"はありません。全て"必然"なのです」
 二人のやりとりを、ランディはきょとんと見ていた。遅れてやって来たヴァルキリーも、話が見えていない。
「知り合いか?」
「あー、知り合いとゆーか死んだパパと面識があって、子供の時から知ってる人」
「ふーん?」
 オルハの説明は正直よく分からなかったが、詳しく聞いてもどうせ分からないので、ランディは考えるのをやめた。
「しかしオルハ様、付き合いは選びませんと」
「?」
「ビーストなどという劣等種族と付き合いを持つなど」
 ランディが弾けるように反応して、睨んだ。そのまま一歩踏み出す。
「なんだぁ? てめェ……」
「ほら、このように野蛮で愚かな種族です。対等な関係など築けるはずがありましょうか。いえ、ありません」
「ははぁ……俺の姿を見るなり狙撃してきやがったのは、そういうわけか?」
「……失礼。もう少し離れて頂けますか? 苦手なんです、この獣臭」
「てめぇ!」
「待って!」
 ランディが怒りをあらわに、右手を突き出して飛び出そうとする。意外にも、それを制したのはオルハだった。C4に向き合ったまま、左手でランディを制止つつ、前に出る。
「少しだけ、ボクに話をさせて」
「……分かった。その代わり、終わったら俺にやらせろよ」
 ランディはしぶしぶ答えて踏みとどまる。こめかみの血管がぴくぴくと動いていた。
「……相変わらずだね、C4」
「オルハ様こそ。素直で可愛らしい所は昔のままです」
「ありがと。……で、C4はなんでここに? 今は教団に所属してるの?」
「いいえ。私は今、小さな組織に所属しております。オルハ様がここに来られると聞きましたので、お待ちしていたのですよ」
 ……待ち構えられていた?
「一体どっからその話を聞いたの?」
「その質問には答えられません」
「……」
 オルハは何も答えなかった。少し俯いたままで。
 まあ、情報の出所は限られている。どうやらイオリたちと何らかの関係がある事ぐらいは、すぐに想像がつく。
 しかし、今はその事よりも感情的な複雑さに迷っていた。彼は、自分の幼少時代を知っているし、過去に交友のあった相手だ。どう対応したらいいものか分からない。
 しかし、少なくともこちらの味方とも思えない以上、余計な事を話すわけにもいかない。すっかり手詰まりになってしまった。
「……すまねぇな、そろそろいいか?」
 無言の長い時間に苛立ったのか、ランディがオルハの肩に手を置いて、言った。
「……うん」
 俯いたまま、オルハは静かに答えた。これ以上の問答に、何か意味があるとも思えなかったから。
「1on1でいいだろ?」
「お好きなように……面倒ですが、お相手をして差し上げましょう」
 嘲笑うような、見下ろした視線でC4は答えた。
「オルハ、ヴァルは手を出すな……よっと!」
 言いながら、ランディは斧を振り上げる。
「おやおや。これは殴られたら痛そうだ」
 茶化しながら、C4も左手に鋼拳を、右手に片手剣を持った。
 目を引くのは、その片手剣の剣身だ。通常、片手剣というものは"斬る"ことを目的として作られるため、身幅が広い。それは強度を増し、インパクトの際にブレるのを防ぐためでもある。だが、彼の剣は異常に細く、剣身の断面図が正円になっているようだ。
 つまり、刺突を目的としているということである。護拳も大きく、相手の攻撃を受け流す用途を兼ねている。握りも人差し指と中指に挟みこみ、腕の延長上に剣身がある。
 ……フェンシング・スタイル。相手の攻撃を受け流してその隙に的確な突きを放つスタイルだ。左手の鋼拳も攻撃より盾代わりに使うに違いない。重さで威力を叩き出すランディとは正反対であり、相性の悪い相手でもあった。
 面倒な相手だとランディは舌打ちした。だが、ぐだぐだ考えている場合じゃない。
「うら!」
 この斧で渾身の一撃を叩き込んでやるだけだ。ランディは力強く振り上げた斧を、C4の頭めがけて振り降ろした。
「野蛮な」
 C4は呟いて、体を右に半身ずらす。掌を向ける形で剣を持ち上げ、剣身の真ん中ほどで斧と接触させる。そのままゆっくりと手首を返して内側に剣身を向け、角度を殺して斧の刃先を滑らせてゆく。
 フォトンの火花が飛び散った直後、鈍い音と共に激しい土煙をあげて二人の姿を隠してゆく。
「やったぁ!」
 ヴァルキリーが喜びの声をあげた。二人の姿はまきあげた土煙で見えないが、あの勢いなら間違い無くC4はまっぷたつになったと思ったのだ。
「……まだだよ」
 冷静にオルハが呟く。
「え? 今ので倒せたんじゃないの?」
「ランディにとって、もっともやりにくい相手だよ、C4は」
「???」
 困惑するヴァルキリーをそのままに、オルハは唇を噛んだ。相手が悪い事ぐらい、オルハにも分かっていた。戦い方を教えてくれたのは、他でもない、今ランディと戦っている相手なのだ。
 やがて土煙が晴れてくる。そこには、斧を地面に振り降ろしたままのランディの肩を、C4の剣が切り裂いていた。
「!」
 ヴァルキリーが声にならない声をあげた。
「当たらなければ何のこともありません」
「ち……いなしの達人だな、あんた」
「それはどう……げふっ」
 答えようとした直後、C4が半歩ほど吹っ飛ぶ。ランディの足が、みぞおちめがけて蹴りこまれたからだ。
「こういうの、卑怯とか言わねェよな?」
 突き出した足をぶらつかせながら、ランディはにやにや笑っている。
「野蛮な」
「なんとでも言え」
 今の蹴りで少し距離が離れた。ランディはおもむろに体をひねり、左へ大きく薙ぎ払う。C4も咄嗟に反応して飛びのく。斧が大きく空を斬った。
 直後、C4が前へと踏み込む。これだけの大きな得物を振り回しているのだ、直後の隙はかなり大きいと踏んでのことだ。
「来たな」
 ランディがほくそ笑んだ。左に振った斧を止めずに、そのままの勢いで一回転し、そのまま二発目を放つ。
「!」
「うりゃあ!」
 速い! C4は慌てて足を止める。目の前を斧がかすめてゆき、ごうっという音と風圧が目の前を襲う。
 ……完全に、こちらの真意を読まれている。C4は小さく舌打ちして、体制を整える。近距離での戦いを前提とした装備なのだから、近づかないと始まらないのを逆手に取られた。
 だから、今度は踏みこまなかった。ランディが体制を立て直すのをあえて待つ。
「さ、これで五分五分だ……次はどう遊ぶかい?」
 不敵ににやりと笑って、ランディは言う。C4は何も言わなかった。
「普通あれだけ重い得物だとイニシアチブを取られちゃうもんなんだけど、きっちり空間を掌握して対等まで持っていってるなあ。ボクも見習わなきゃ」