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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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 オルハが呟くように言う。それは戦況より、自分の向上心から出た言葉だった。
「くっ……劣等種族ごときが」
「ガキん時に習わなかったか?」
 言ってランディは斧を左から振り降ろす。C4はそれを刃で横にそらしてかわす。斧が降りたのを確認してから踏み込もうとするが、そうは問屋が卸さない。返す刃で左へと凪ぐ。
「人をバカって言う奴がバカなんだぜ」
「いいぞー! ランディ!」
 ヴァルキリーが黄色い声で叫んだ。先ほどまでの緊張感はどこへやら、余裕なものである。
「ねぇオルハ、なんで二人とも近づこうとしないの?」
「あのね、C4は近距離用の武器だから、本当は近づきたいの。でも、ランディは近づかせたくないの。斧は重量と遠心力で破壊力を持つもんでしょ?」
「ああー」
「だから、ランディは攻撃の中にフェイクを混ぜて、自分の有利な距離をコントロールしてるわけ」
「なるほど。じゃあ見てて安心だね。ランディ、ガンバレー!」
「きゃーきゃー!」
 あまりにも緊張感の無い声援だが、戦っている二人には関係無い。C4が中間距離から、牽制の突きを放つ。ランディはとっさに半歩下がる。そのまま何度も突きが放たれ、それをランディが下がって避ける。それを何度も繰り返した。
 しなる剣先が、少しずつ空間を切り取っているかのようだ。じわじわと、しかし強引に、ランディのスペースは削られていく。それに従って、連打の量も少しずつ増えてゆく。
(……この距離じゃ手を出しにくいし、一気に離脱するのはリスクが高すぎる。ここは押されているフリをしておいた方がいいだろう……問題は、"どこに合わせるか"だ)
 降り注ぐ連打を斧の刃と柄先で弾きながら、ランディは好機を待っていた。
「あれ? 押されてるよ、ランディ」
 ヴァルキリーが不思議そうに呟く。
 C4の剣先が、徐々にランディの服をかすめだしていた。
「……!?」
 ランディは気づいた。肌をかすめた所がぴりぴりと痛む。よくよく見ると、C4の剣身が黄色に光り出していた。なるほど、剣身のフォトンに雷の属性を持たせ、動きを封じに来たか。感電させられるのは避けたいところだ。
「ははは、どうした劣等種族め」
「……」
 ランディはあえて黙っていた。剣の合間を縫って、右からのミドルキックを放つ。C4もすぐに気づいて左手のナックルの甲で払う。右足を引くついでに、左半身を前へと入れ替え、斧の柄頭を突き出す。C4は片手剣の護拳をかすめさせ、外側へと逸らした。
「ねぇ、オルハ、ランディ押されてるよ? あれはどういう戦術なの?」
「えっと……やられてるフリ?」
「おお……高度すぎる」
 ……まったく呑気なもんだ、とランディは思った。
 まあ、間違っちゃいねぇか。後はどこでひっくり返すか、だな……。
「ははは、どうした劣等種族!」
「うるせぇ、だまってろ!」
 ランディは斧を下から上へと振る。予備動作の無い一撃を、C4は剣でいなす。ちょうど、ランディの重心が左に持っていかれた形になる。C4は好機と踏んで、一歩前に踏み出した。ここからが剣の距離だ!
 ……次の瞬間、がしゃっ、と鈍い音が響いた。機械製品をカーペットの上に叩き落としたような、そんな音だった。
「……っ、が……???」
 C4は、一瞬何が起きたか分からなかった。ただ、視界が真っ暗になって、何も見えなくなっていた。
 状況を理解しようと試みる。眼球の位置にあるメインカメラがやられた、すぐにサブカメラに切り替える。問題ない、たかがメインカメラをやられただけだ。
 ランディの右肩が、顔面にめり込んでいた。斧の勢いで体が左へと回転し、その遠心力を利用した体当たりを放たれたのだった。
 まさか、もしかして……。C4は、ひやりとしたものが背筋を撫でていくような感覚に襲われる。
「生憎、接近戦は大得意とするところでね」
「……ふふ、ははは。誘いこまれたというわけか」
「そういう事だ」
 ランディが、一歩後ろに引いた。
「あばよ」
 斧を振りかぶり、一気に振り降ろす。ゴキン、という激しい金属音が響いた。斧の大きな刃がC4の左肩に激しく突き刺さる。衝撃で体がガクンと折れた。細い足が耐え切れなかったのか、右足首からネジが弾け飛び折れた。そのままバランスを崩し、もんどりうって転倒する。
 すぐに立ち上がろうと体をひねるが、体を起こそうとした左腕が火花を上げて肩からもげる。起こそうとした勢いのままで、再度地面に転がった。
 次の瞬間、背中に激しい衝撃が伝わり、地面へ叩きつけられる。まるで車に轢かれた蛙のように、無様に地面に突っ伏した。
「く……!」
「悪いが、こうなればこっちのもんだ」
 ランディはためらいもなく、さらに斧を振り下ろす。それからもまるで畑を耕すがごとく、振り上げては振り降ろした。その速度は斧を扱っているとは思えない速さで、激しい土煙がまき起こる。
(……甘く見すぎたか)
 C4は何度も繰り返される衝撃を感じながら、薄れゆく意識の中で後悔した。
 ……全ては劣等種族の計算通りだったというのか……!
(……トランスミッション……OK。トランザクション……コミット……OK)
 腕がもげて、足が飛んだ。最初から痛覚は無いが、自分の体がバラバラになるのをここまで冷静に見れる状況など、そうない。ふと、絶望しながらも心が踊っている事に気付く。思えばしばらく、敗北の経験が無かった。しかも負けた相手はビーストで、何のためらいもなくぶっ壊しにかかっている。スクラップ屋でもここまではやるまい。
「くくく……劣等種族め、次が楽しみだ」
「ねぇよ」
 ランディが振りかぶった斧を一瞬止めて、見下した視線で吐き捨てるように言った。
 そしてそのまま、顔面めがけて最後の一撃を叩き込んだ。

「ほら、やっぱりやられたフリだったんだ。ボクの思った通りだ」
 得意げに言うオルハに、ランディはため息で返す。
「フリ……というか、自分の得意距離に引き込むのが定石だろ、ようは駆け引きだ。斧を使ってると中間距離が得意だと勝手に勘違いしてくれる。そして向こうに近距離に入れば勝てると思わせとけば、勝手に得意距離に入ってきてくれるって事さ」
「う〜む、なるほど〜」
 ヴァルキリーは腕を組んで頷いている。本当に分かっているかは怪しい所ではある。
「……ところでオルハ。容赦なくぶっ潰しちまったが、本当に良かったのか?」
「え? ああ、うん……」
 オルハが挙動不審気味に、おずおずと答えた。
「……正直、よくわかんないんだよね。戦い方を教わった人でもあるけど、別に特別親しかったわけじゃないし、子供の私にビースト劣等論を展開するような人だし。ただ、物心ついた時から近くにいたから……いるのが普通だったんだよね、昔は」
 ふと、オルハは目を細めて遠くを見た。
「ボクは悲しむべきなのかな? それとも、喜ぶべき?」
「いいんじゃねぇか? 自分に素直になれば。よく分からないなら、"よく分からない"と言えば」
「……かな」
 納得がいっているのかいっていないのか、視線を泳がせながらの曖昧な答えが帰ってくる。それを見て、ランディは困ったような顔で苦笑した。