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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe20 切ない夢と、再会と


 ……ああ、またこの夢だ。
 ランディはあきれてため息をつきながら、辺りを見渡した。暗い、暗黒の世界。欲望と、混沌が限りなく渦巻く景色。人は生きるために奪い、悪を許容してゆく。
 ここはモトゥブの中でも下層に位置する、通称"ゴミ捨て場"。単純に高い階層からゴミを落とすためだけに存在している層だが、同時に人もわずかに住んでいた。
 そう、様々な理由で一般社会に受け入れられない、ホームレスや犯罪者たち。ここは"スラム"であり、一般社会では存在を認知されていない者たちがここに住んでいた。
 ここで頼りになるのは己の能力と、降ってくるゴミの"当たり"を見つける運。新鮮な食べ物が降ってこようものなら、それが理由で暴力沙汰が起きる。そんな事は日常茶飯事だった。
 だが、今日は違っていた。
 上層から注がれたゴミ山の周りに群がる人影。
 すでに動く事のないホームレスたちが、大量に転がっていた。圧倒的な力でめちゃくちゃに潰された者、鋭利な刃物でばらばらに切断された者、不可思議な力でゲル状となった者……様々だった。
 それを見下ろす、ゴミ山の上に立つ大きな影。大きな体と腕を持つ、混沌の化身。その鉤爪は全てを引き裂き、その怒れる拳は全てを打ち砕くだろう。邪神か、はたまた破壊神か。
 同時に、希望がそこにあった。
 対峙する一人の少女は小柄で、長い髪をたくわえていた。鈍く赤い光を放つ、一本の金属剣。武器らしいものはそれしか持っていなかったが、彼女はその邪神と戦っている。
 だが、決して優勢とは言えない。お互いの実力が均衡しており、一瞬の迷いが死を招く状況だった。
 ランディは彼女を応援したいが声は届かない。助けたいが体も動かない。
 少女が一瞬、振り向いた。ランディと目が合う。
 彼女は大きな瞳に通った鼻筋のまごうことなき美少女だった。彼女は何かを言いたそうな目でランディを見つめる。
 そこへ襲いかかる、破壊神の一撃。
 視界に靄がかかり、景色が闇に飲み込まれてゆく――。

「……ディ、ランディ!」
 遠くから呼ばれる声がして、わずかに感覚が戻りだす。全身に鈍い痛みが走り、ゆっくりと五感が戻り始めるのを実感する。
 瞼を開きたいのだが、重くて開くのに一苦労する。
 面倒なので、これは後回しだ。
「うう……」
 僅かにうめいて、そのままでいたがる体を無理やりずらしてみる。背中が堅いベッドで擦れ、ひりひりと痛みが伝わってくる。
「ランディ! 大丈夫!?」
 この甲高く響く声は、オルハだ。何やら慌てた口調でまくしたてている。
「大丈夫に……決まって……んだろうが」
 胃酸と血でむせかえる口を開いて、声を絞り出す。あまりの労力に、これだけの事で半日分は働いた気分にさえなった。
「でも、でも……っ」
「……?」
 ランディには、オルハがいやに慌てている理由がよく分からなかった。
「なんでそんなに泣いてるんだよっ!」
 ……泣いて?
 ……誰が?
 ……俺?
「ああ……夢だ。夢のせいだ」
 ここでやっとランディは、重い瞼を開くのに成功した。
 薬の匂いがわずかに漂う病室。6つの決して豪勢とは言えないベッドが並べられ、部屋は白い色調で統一されている。
「……夢?」
「ああ、昔からよく見るんだ……妙にリアルな……」
 右腕をなんとか動かして、頬を伝って耳の方まで流れていた涙をごしごしと拭った。
「……この夢を見た後は、決まって切ない感情に心を支配されてしまうんだ」
 上体をゆっくりと起こすと、全身に走る痛みをひしひしと感じながらランディは答えた。
 体を見下ろすと、手当はすでに済んだようで、上半身は服ではなく包帯に包まれている。
「……ばかっ、メディカルセンターに着いてすぐ意識を失ったから、ボクてっきり死んじゃったかと思って……!」
 ……そうか、ヴァルキリーを抱えてなんとかシティに辿り着き、オウトク支部のメディカルセンターに駆け込んだんだった……。
 メディカルセンターとはガーディアンズの医療班が常駐する、医療施設の事である。ガーディアンたちが任務で怪我をした場合の治療だけでなく、任務によっては同行する場合もあった。
「……大丈夫だ、まだ死ねねぇ」
 ゆっくりとオルハの方を振り向きながら言って、ランディは少し驚いた。
 オルハも泣いていたからだ。
「ランディが死んじゃったら、ボクはどうしたらいいんだよっ! ヴァルだってあんな状態なのに……!」
 しゃくりあげる喉を抑えながら、時々裏返る声でオルハは言う。
「! そうだ、ヴァルは!?」
 その言葉にはっとなって、ランディは傷ついた体を顧みずベッドから飛び降りた。部屋のベッドにはヴァルキリーの姿は見当たらない。
「あっち……」
 オルハはおずおずと指さした。入り口の側を指しているのに不思議に思いながら、部屋を飛び出す。
 廊下は奥まで続いており、突き当たりには両開きのドアがあって、その上に赤い文字で嫌な単語が書かれていた。
「"集中治療室"……!」
 言いながらランディは走り出していた。オルハが声をあげるのを気にせず、ドアに近づく。
「ヴァル! ヴァル!」
 ランディはドアにしがみつくように両手をついて叫ぶ。後から来たオルハがその腰を両手で掴んだ。
「ランディ! だめだよ、いま治療中なんだよ!」
「ヴァル! 大丈夫なのか!」
 しがみつくオルハの小さな体を気にせず、ランディはドアを殴りつける。
 この事態に、周りも気づき始めた。患者や看護師たちが何事かと顔を出し、警備員も姿を表し始める。
「ランディ、やめなよ! センターに迷惑だよ!」
「ヴァルは大丈夫なのか! 生きてるんだろうな!」
 その状況を理解していないように、思いつめた表情でランディは叫んでいた。
「くそ……っ、これ以上、死なせてたまるもんか! 誰も死ぬな!」
「もちろん、死なせるつもりはないから安心して?」
 後ろからの声に気づき、二人は振り向く。そこには一人の女性が立っていた。肩に触れるか触れないかの濃紺の髪に、やや幼めの顔立ちで丸メガネをかけている。
「おい、あんた、医療班のもんか! ヴァルは、ヴァルは大丈夫なんだろうな!」
「ちょっと君、お〜ち〜つ〜い〜て〜」
 彼女の肩を掴んで揺らすランディに、彼女の頭が振り子のようにぐらぐら揺れる。
 それを見てオルハが不思議そうな顔をしてから、彼女を指さして叫んだ。
「エマ!?」
「あれ? オルハちゃん、なんでここに?」
 彼女もまた、不思議そうな顔で答える。
「医療班にいるとは聞いてたけど、ニューデイズにいたんだ」
「うん、最近こっちに配属になって。……あらあら、そんなに泣いてどうしちゃったの?」
 エマは笑顔でそっとオルハの顔を両手で包み、親指でそっと涙を拭ってやる。
「……どういう事だ?」
 予想外の状況にあっけにとられたランディが、おずおずと聞いてみる。
「えっと、ボクがガーディアンズに入るきっかけになった人」
「そうそう。二年前、オルハちゃんがうちらのキャンプに襲撃してきてね。返り討ちにしてあげたの」
「うん。医療班っぽかったから戦闘力はあまりないと思ってたんだけどね」