白昼夢
ジージジジ
人の行き交う声を掻き消す蝉の音。
太陽が全ての思考を鈍らせるように照り付ける。
今日は本当に暑い。
「へーそれも大人の事情?」
「うーん…これは私の気まぐれ」
「なんすか、それ」
今度はげらげら笑って涙目になっている彼にどうする?と答えを促す。
「あー商売も一段落したところですし、いいっすよ」
残りのそれで手を打ちましょう。
そう言って半分切り崩された山を指差す彼に相変わらずだなと苦笑を漏らし、新しい氷を買ってやった。
「さすが、一人前の忍者っすね」
目がキラキラと輝き尊敬の眼差しで見つめられ今度は思わず失笑が零れてしまう。
「これで一人前の忍者になれたら苦労しないけどね」
積もる話しもあるだろうと、店を出て二人町外れの河原の方に歩きだした。
ジージジジ
鳴り止まない蝉の音。
二人のやりとりもまた外界から掻き消される。界隈はいつも通りの日常を繰り返す。
ただお互いの偶然が交わった暑い夏の出来事。
「聞いたよ、きり丸くん。求婚されたんだって?」
今まで互いの話しをしながらゆるりと河原を歩き、行き着いた適当な橋陰に二人腰掛けると、私はそう切り出した。
と彼は盛大に氷を詰まらせる。げほげほと噎せる彼の背中を撫ぜながら小さく笑う。
あの楽しい噂は本当だったのだと。
「良かったね、村を一個持てるなんて大出世じゃないか」
「…それ本気で言ってます?」
涙目で睨まれたが、睨まれてもにっこり笑う私を見て彼は溜息をついた。
「あいつは馬鹿なんすよ」
「…十分嬉しそうに見えるけど」
目線だけ私に戻される。
マジマジ見てもう一度深く溜息をついた。
「…俺はお嫁さんにはなれないっす」
まぁ至極真っ当な意見だ。男なのだから当然だ。
あの現実の緊張感や殺伐さから夢のような甘い友達付き合いに錯覚を起こし、男同士で付き合う奴らも少なくはないのだけども彼は違うらしい。
「男、だから?」
当たり前じゃないですか
そういって顔を背け、目の前に立てた膝の上に顔を埋める。
一見照れているようにもとれるが、ちょくちょく面倒を見てきた性であろうか。
なんとなく別の理由に思い立ってしまった。
「…というのは建前で土井先生がいるから?」
膝の上預けた肩が僅かに揺れた。やっぱり君はその名前に反応する。
その一瞬の動揺を取りこぼすほど私も落ちぶれてはいない。
川は静かに流れ、決して流れを止めない。
私たちの間には蝉の音だけがけたたましく鳴り響き、お互いその空間に身を預けていた。
彼は振り向かない。いつもであれば即座に否定の怒声が聞けるであろうのに、今日はそれがなかった。
…この暑さのせいだろうか。
私も少し調子が狂う。