白昼夢
「ふぅー…あっちぃ…」
「まぁあれだけ動けばねぇ。お疲れ様」
あまりの呑気な一言にカチンときた。こっちは大人に付き合わされてくたくただ。
「お疲れ様じゃないっすよ…若者が動けとかなんとか言ってたの利吉さんじゃないっすかー」
「しかしその挑発に乗ったのは君だ」
手ぬぐいを水に浸し、少しの冷却を試みる。ないよりはマシだけどやっぱぬるい。
この人に何を言っても敵いやしない。悔しいけど力の差なんだとまざまざと思い知らされた一日だった。
「利吉さんもどうっすか」
「いや…私はいい。汚いだろうその川」
じろりと手に持つ布を見つめられると可笑しさに少し笑った。
「忍者の癖に潔癖なんすね」
「私はスマートな戦い方を好むからね」
嘘ばっかり。勝つためには何でもやる癖に。
俺と貴方もその辺は似てるんですよ。勝ちにこだわる貪欲な姿勢と人が良いようで淡泊な人との付き合い方。
俺の考えが理解出来るのはこの人だと直感した。その直感は未だ変わらず、事実が直感を現実のものとしていく。
まぁ自分の直感は基本外れないんだけど
「あーだるーおもー動きたくないー」
ばたりと大の字に横になると、身支度を整え何もなかったような涼しい顔した男の顔が目の前にきた。
眩しい笑顔が憎たらしい。
「大丈夫、責任持って送り届けてあげるよ」
保護者の元にね。と付け加えるその男を心の底から睨みつける。
俺だってこんなに質悪くはない。
「いいです。一人で帰れます」
「人の好意を無下にすると後で痛い目みるよ」
顔は笑顔だが拒否を許さない言葉。これは脅迫というものではないのか。
「やっぱりこれは金10枚くらい貰わないと割に合わない…」
ぶつぶつ不満を呟く俺を後ろから抱え起こすとよしよしと頭を撫でられた。
「実を言うとね、土井先生にも用事があるんだ」
「なんで」
「んーそれは内緒」
君もそのうち分かるよと腹の内が真っ黒そうな綺麗な笑顔を見せるこの人に、やっぱり大人ってずりぃと思った。
どう足掻いても絶対敵いっこないのだから
ああそういえば先生はどうしてるかな…怠い体を預けながらまどろむように自分の帰りを待つ人を考えた。