トラブル・スクエア
それから昼休みになると、何故か静雄は門田の側によく姿を見せるようになった。
とはいえ別段読書の邪魔をするわけでもなく、隣で居眠りしているだけだ。
臨也がやってきても、門田がいるとあまり静雄にちょっかいをかけてこない。ただ面白く無さそうに遠くの物陰から観察されている時があって、気にはなるのだが。
「……え? ふたりのこと?」
久しぶりに校庭で追いかけっこをしている二人を窓から見下ろしながら、門田は最近の動向を新羅に尋ねてみた。
「なんだドタチンは全く気付いてなかったのか」
新羅は大きな瞳を細めて笑った。
「ドタチンって言うなよ。気づくって?」
「こないだ静雄が怪我したとき、門田が保健室まで連れて行ってやったんだって? 静雄すごく嬉しかったみたい」
「へぇ」
口で言ってくれたらいいのに。――別に言われたいわけでもないけれど。
「それで昼休みは俺のところに来るってこと?」
「ああ。臨也と付き合いたくないってぼやいてたから、他に一緒にいる友達がいればいいんじゃないかなって言ったんだ。ただし門田はいつも本読んでるからジャマするな、っていうアドバイスも僕が伝えたから」
「つまりお前のせいか」
「静雄を手なずけたのはドタチンだよ」
「ドタチンって言うな」
手なずけた覚えなど無いけど。
ただ、こないだの臨也の静雄に対する暴力は、ちょっと度を超えていたかとは思う。確かに静雄は丈夫で、大した怪我にもならなかったとしても、あれはかなり痛かっただろうと思うし。
「まあ、臨也のほうはね、静雄が構ってくれないから不満げだけどね。ああやって毎日喧嘩してるほうが、余計な悪だくみしなくていいって思ったりするんだけど」
「相手させられてる静雄のほうが大変だろ、それじゃ」
「あー……そだね」
新羅は門田を驚いたように見つめてきた。
「なんだよ」
「いや、ドタチンも結構静雄のこと好きなんだな、って思ってさ」
「そういう意味じゃねぇよ」
「普通はあの二人に関わると面倒だって思うらしいよ。他の人はさ」
にこにこと新羅は邪気のない笑みを浮かべて言う。しかし新羅もまた変わり者だ。きっと良からぬことを企んでる気がした門田は、自分の机に戻ることにした。