【テニプリ】Marking
「…取り敢えず夕方、空港まで越前を迎えに行って来るぜ。…しかし、こんな騒ぎになってる中、帰って来るとは、越前の世界の中心はお前を軸に回ってるよな」
どんなに遠く離れていてもたったひとりのひとを想えるリョーマの一途なまでの恋情には感嘆する。それも、十年と言う長い期間、尽きることなくお互いを想いあってきたのだから、称賛してもいい。しかし、十年もバカップルぶりを見せつけられて来た身にすれば、いい加減にしろとも言ってやりたくなるのだが……言ったところで、多分、どうにもならない。
「…違うな。越前を中心に世界が回ってるんだ」
揶揄うつもりの言葉にキッパリと手塚にそう返され、跡部は内心、砂を吐く。今時、そんな台詞が出てくるのはどんなラブロマンスだ?…ラブロマンス好きの忍足なら感動するかもしれないが、真顔でそんなことを口にする手塚はまさに"恋は盲目"。
(…お前、そういうキャラじゃねぇだろ…)
回りが見えていない。そんなふたりに振り回されて、十年も経ったのかと思うと、跡部は切なくなってきた。
「…前にも聞いたけどよ。どこがいい訳?、越前の」
今のリョーマは知り合った頃に比べ、手足も伸び、今では自分とそう目線が変わらなくなった。態度のデカさや生意気ぷりは相変わらずで、デカくなった分、可愛いげも無くなったように思う。
「…どこが?…愚問だな。全部にいい決まってるだろう」
「全部じゃ解らねぇよ」
「…教えたら、お前、惚れるだろう?」
真顔でそう言う手塚に跡部は心の底から深い溜息を吐いて、眉間に皺を寄せると額を押さえた。
(…はぁ)
リョーマは溜息を吐いて、キャンセル待ちで余りいい席は取れず、狭い座席に大きくなった躰を縮込めた。サンフランシスコを出て、三時間…東京に到着するまで半日あまり…。快適とは言い難い空の旅にリョーマの溜息は止まらない。
(…跡部さん、ちゃんと国光さんの誤解、解いてくれたかなぁ…)
寝ても覚めても考えるのはただひとり、手塚のこと。リョーマはまた溜息を吐く。
(…誤解とはいえ、嫉妬してくれるなんて、ちょっと嬉しかったけど、やっぱショックだな。国光さん一筋のオレが浮気なんかする訳ないじゃん)
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故