【テニプリ】Marking
悶々と空の上、リョーマは煩悶していた。実らない初恋が実り、十年。時間が経てば、いつかはこの恋も冷めてしまうのかと怯えていたのに、熱情は冷めることがない。むしろあの頃より、ずっと、手塚に夢中だ。手塚なしにはもう生きていけないと思えるほど、出会ってから、リョーマの世界の中心は手塚だ。回りなんてどうでもいい。手塚さえいれば、何もいらないし、何をを捨てたって構わない。そう思っているのに、手塚は自分を信じてくれていないのかと思うと、切ない。リョーマは溜息を吐いた。
(…勢いに任せて、飛行機乗っちゃったけどさ、国光さん、会ってくれるかなぁ?)
誤解とはいえ、良く言えば真面目で、悪く言えば頑固で自分の目で見たものしか信じないひとだ。やましいことは何一つないけれど言い訳になってしまいそうな言葉を信じてくれるだろうかと思うと気が重い。
(…はぁ)
目を閉じて、ブランケットをリョーマは引き寄せるが躰は疲れているのに、眠れそうになかった。
「…聞いているのか?跡部」
「……聞いてる聞いてる」
延々と聞かされていた手塚の愚痴…惚気話がふつりと途切れる。適当に相槌を打ちながら聞き流していた跡部が顔を手塚に向ければ、酔い潰れたらしい手塚がテーブルに俯せ、寝息を立てている。それを跡部は見やり、深い溜息を吐いた。
(…他の連中交えて飲んでるときは、ザルのクセにどうして、俺様と二人で飲むときだけ、絡み酒な上に深酒なんだよ…ι)
いつもは寡黙な癖にこういうときだけ、手塚は饒舌だ。そして、散々喋って、ワインを三本開け、気が済んだのか電池が切れたように手塚は眠りに落ちた。…その後始末は跡部の仕事になるのだ。
「…はぁ…、手塚、んなトコで寝んじゃねぇよ」
頭を小突くが、一度寝付いてしまった手塚が起きることはない。跡部は苦労して、テーブルに懐く手塚を引き剥がすとそのまま、寝室まで引き摺ってベットの上に伸びた躰を放り出し、跡部は息を吐いた。
(…はぁ…。何で、俺様がこんなことしなきゃなんねぇんだ?アーン…)
普段は樺地に自分が今と同じようなことをさせているのだが、今は棚上げして、跡部は手塚の眼鏡を外すとサイドボードの上にコトリと置いた。
「……こんな手間の掛かる男のどこがいいのかねぇ、越前もよ」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故