【テニプリ】Marking
もう何度目になるか解らない溜息を吐いて、リョーマは俯いた。
「…あの、」
前を歩いていた女の子の二人連れが急に立ち止まり、振り返る。道を塞がれたリョーマは仕方なしに立ち止まった。
「……何?」
「越前リョーマ選手ですよね?」
意を決したように口を開いた女の子にきらきらと潤んだ目で見上げられ、リョーマは内心溜息を吐いた。
(面倒臭い。適当に誤魔化して逃げよう)
「…似てるって、よく間違われるんだけど、違うよ」
「…そーですかぁ?」
語尾を伸ばす喋り方にうんざりする。疑いの眼差しで見つめて来る相手にリョーマはまた心の中、溜息を吐く。正体がバレては危険を冒して帰って来た意味がなくなってしまう。
「…よく勘違いされるから、迷惑してるんだよね。…ってゆーか、あのひと、アメリカのツアー回ってるんじゃないの?それにこんなトコ、一人でいないと思うけど」
(…アメリカ、居なきゃいけないんだけどね。ホントはさ…)
リョーマは立て板に水で嘘を並べ立てる。騒ぎになる前に移動しなくては。既にちらほらとこちらを注視する人だかりが出来ている。
「…そーですよね。でもぉ、ホントに似てますね」
「…気の所為でしょ。じゃ、オレ、急いでるから」
二人の脇を早々にすり抜け、リョーマは急いで出口に向かう。
(…財布、円、入ってたっけ? タクシー、カード使えるといいんだけど…)
タクシー待ちの列に並び、帽子を目深に被り直す。溜息を吐いた肩を不意に叩かれ、リョーマはぴょんと驚いて飛び上がった。
「よう!」
振り返った先には、泣き黒子の見知った顔。
「…あ、跡部さん」
ドキドキする胸を押さえ、リョーマは跡部を凝視する。跡部はニヤリと笑んだ。
「幽霊見た、みたいな顔してんじゃねぇよ」
「…ってゆーか、何で、跡部さんが…」
ここに?リョーマは眉を寄せた。
「ん?、んなの、乾から連絡受けて迎えに来たからに決まってんだろ、アーン?」
当然のように言葉を返され、リョーマは溜息を吐いた。何もかも乾には自分の行動は予測されていたらしい。
「…先に言っとくけど、国光さんに会うまで、帰らないから」
「そー言うと思ったぜ。…取り敢えず、空港出るぞ」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故