【テニプリ】Marking
くつくつと笑い、跡部は電話を切ってしまった。手塚はむっつりと眉を寄せた。最近、リョーマはランキングの上位に入り、その後も順調にポイントを上げている。それに連れて知名度も上がり、ちらほらと雑誌やテレビでリョーマを見ることが多くなった。露出が増えた分、女性ファンが急上昇していると言う。非公式のファンクラブがいくつもあると、乾が言っていた。…リョーマは恋人の自分から見ても、贔屓目無しに格好良い。そして、優しい。自分だけのものでいてほしいのに、回りがそれを許さない。こうなることは解っていたはずなのに、胸の奥に燻るようなもやもやに手塚は深い溜息を吐いた。
「……寝よう」
手塚はシーツを引き寄せ、不意に自覚したリョーマのいない寂しさに躰を丸めると目を閉じた。
いつも通りの時間に目が覚めて、手塚は鳴り始める前の目覚まし時計を止めると、ぐっと躰を伸ばして、ウェアに着替える。テニスプレイヤーとしての現役生活はもう終わってしまったが、既に日課となっているジョギングは余程のことがない限りは欠かさない。手塚はシューズを引っ掛けると朝靄の残る街を走り始めた。
(…冷蔵庫が空だったな)
ジョギングを終え、ふと空腹に気付き、手塚はコンビニの前で足を止めた。コンビニのドアを開き、中に入る。早朝という時間の所為か客は疎らで、手塚は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルと牛乳、ハーフカットされた食パンを無造作にカゴに放り込んだ。
(…そう言えば、跡部が…)
週刊誌にリョーマの記事が出ていると言っていた。わざわざ知らせて来るぐらいだ。余程のことだろう。…手塚は書籍のコーナーへと足を向け、そして、立ち止まった。
「……ッ」
週刊誌の表紙のリョーマと煽りコピーに手塚は顔色を変え、無言でその雑誌をカゴに投げ入れるとレジへと向かった。
どうやって家に帰り着いたのか記憶がない。頭の中は真っ白だ。リビングで、雑誌の記事を読み、気分が悪くなって吐いた。
『越前リョーマに恋人発覚!背中の爪痕!!』
試合中、チェンジコート…ウェアを着替えているところを撮られた写真。リョーマの背中には生々しいまでの情事の爪痕。信じられなかった。自分以外にリョーマに触れる他人がいることに。
(嘘だ…こんな…)
手塚は口元を押さえ、吐き気を堪える。
(…俺に触れた手で他の誰かに…)
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故