【テニプリ】Marking
無意識に涙が滲む。手塚は床にずるりと座り込むとうずくまった。
「おかしいなぁ。何で、電話出ないんだろ?」
5回目のコールを切って、リョーマは首を傾けた。
「どうした?」
次のトーナメントの資料から顔を上げた乾にリョーマは顔を上げた。
「トーナメント、優勝したって報告しようと思ってさ。先から鳴らしてるんだけど、国光さん出ないんだよね」
「学校じゃないのか?」
「今日は一日、家にいるって言ってたし」
リョーマはそわそわと再び携帯電話を手に取った。それをやれやれと乾は肩を竦めて見やる。リョーマとの付き合いは、既に十年。リョーマは中学の後輩でリョーマの恋人手塚とは同級生で部活仲間だ。そして、昔話になってしまうが、手塚は片想いの相手だった。部活仲間だった不二も手塚に片想いをしていて、手塚に悪い虫が付かないようにお互い牽制しあって、バランスを取っていた。そのバランスが俄に崩れたのは、目の前のリョーマが現れてからだ。感じた危惧は現実になり、手塚はリョーマの恋人になってしまい、乾の片恋も告げぬまま終わってしまった。端から見ても、割って入り込むことなど不可能と感じるほど、手塚はリョーマしか見ていなかったし、リョーマも手塚しか見えていなかった。そして、この後輩が生意気なのだけれど、可愛くてどうにも憎めず、最後には認めてしまったのだ。
(…っとに、手塚中心に世界が回ってるよ)
リョーマも自分も。…元恋敵であるリョーマのトレーナー兼マネージャーなんて、手塚に頼まれなければ引き受けなかっただろうに。
「もう一回、電話してみよ」
短縮を押したリョーマのそわそわと落ち着かない様子を横目に乾は次の対戦相手の資料を捲った。
「あ、国光さん、オレだけど」
運良く通じたらしい、声からもリョーマが浮かれているのが解る。それが、次の瞬間、困惑に変わった。
「え?、ちょ、待って、国光さん、国光ッ!」
リョーマの狼狽えた口ぶりに何事かと顔を上げれば、リョーマは必死の形相で携帯を睨み、ボタンを押して耳に押し当てる。そして、ぐっと眉を寄せた。
「…っ、電源、切られた!」
「どうした?手塚と喧嘩でもしたのか?」
尋常じゃないリョーマの様子に乾は眼鏡を押し上げる。リョーマは吐き捨てるように溜息を吐いた。
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故