【テニプリ】Marking
バカップルには付き合いきれない。いい加減、何度となく縁を切ってやろうと思いっているのに、結局は付き合ってしまう自分に跡部は深い深い溜息を吐いた。
「いないのか?」
インターホンを鳴らすが応答がない。リョーマはやっぱりと言う顔で肩を竦める。跡部はマスターキーを取り出すと、中に入る。部屋の中は朝出たときと一つも変わっていない。変わっているのは手塚がいないこととぐらいだ。
「…一度、戻っては来たみたいだな」
通学に使っているバックがテーブルの上にある。そして、口を付けたばかりと思われるマグカップが一つ。そのマグカップに触れ、跡部は眉を寄せた。
(…まだ温かいな)
今の今まで、手塚はここに座っていたようだ。
「…手塚のクセに居留守なんざ使いやがって」
「え?」
久しぶりに戻って来た部屋は数カ月前出て行った時と何も変わりない。自分がいた痕跡は薄れてしまっているが、手塚の匂いがする。随分と久しぶりに感じるそれに気もそぞろなリョーマは跡部の言葉にきょとんと目を見開いた。
「…ったく、」
跡部は溜息を吐くと、寝室に続くドアノブを掴んだ。
「んっ?」
ドアノブを押すが開かない。誰かが中から、開けられまいと押し返しているらしい。
「…っ、手塚、往生際悪いんだよ!出て来やがれ!」
「え?!」
リョーマが唖然とする中、跡部はガタガタとドアを壊さんばかりに揺するがドアはびくともしない。
「…ッ、いい加減にしろよ」
梃でも動かないドアに跡部は眉を寄せ、ドアを蹴る。リョーマはどうしたもんかと跡部とドアを見やる。
「…手塚ァッ、怪我したくなかったら十秒以内にそこを開けろ!」
怒りも心頭。手塚の頑なな態度に本気でムカついた跡部はカウントを始めた。
「…1…2…、」
「跡部さん?」
「3…4…、」
「跡部さん?」
「うるせーな、何だよ」
「何するつもり?」
「ドアを蹴破る」
「え?!」
「…8…9、」
「ちょっと、待っ…!」
「…10!!」
脚を振り上げた跡部にリョーマはぎょっとした顔で掴みかかった。
「ちょっと、待て!」
「うるせー!越前、離せッ!!」
「落ち着いてよ!」
二人が揉み合う中、ドアが静かに開く。それに、二人は揉み合ったまま固まった。
「…国光さん」
「…リョーマ…」
ぽいっとリョーマに床に投げ捨てられた跡部は呆然と見つめ合う二人を見上げた。
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故