【テニプリ】Marking
「…国光さん」
「…リョーマ」
普段の手塚からは想像もつかない変貌ぷりに、跡部は溜息を吐く。
(…阿呆くせぇ)
真剣に付き合えば付き合う程、馬鹿を見る。金輪際、コイツらのやっかいごとに首は突っ込むまいと心に硬く誓う跡部の目の前、手塚はリョーマの視線に耐え切れず、視線を伏せた。
「リョーマ……すまない。…俺は…」
「誤解が解けたんなら、それでいいよ。オレ、怒ってないよ」
「…でも、」
「疑われたのは悲しかったけど、オレのことが好きだからでしょ。…国光さんも嫉妬してくれるんだって解ったし、それはちょっと嬉しかった」
「…俺は嫉妬深いんだ。お前に俺以外に触れる奴がいるなんて、耐えられない」
「それはオレも一緒だよ。オレ以外の誰にも、アンタを触らせたくないし、見せたくない」
端から聴く恋人同士の会話は限りなく甘く、ましてや知らない仲ではないふたりの世界に胸やけする。それを否応なく目の前で繰り広げられ、…見慣れた光景とは言え、跡部は砂を吐かずにはいられない。
(…お前ら、俺様が居ること忘れてるだろ…)
床に尻餅をついたまま、跡部はふたりを見上げていた。
「…リョーマ」
「国光さん」
離れていた二人が引き合う磁石のように指を絡め、顔を寄せる。ぎょっとして跡部は二人の間に割って入った。顔なじみのキスシーンなど、二人がどんな関係か解っていても、見たくはない。
「…跡部、」
「跡部さん」
邪魔すんな!と、久方ぶりの抱擁の邪魔をされたリョーマと手塚に露骨に睨まれ、跡部は溜息を吐いた。
「俺様の目の前でいちゃつくんじゃねぇ!」
「えー、いいじゃん。久しぶり何だしさー」
「そうだぞ。邪魔をするな」
「そういうのは、俺のいないところでやれよ。見られて恥ずかしくないのかよ?」
「別に、見られても構わないけど。乾先輩や不二先輩ならともかく、跡部さんだし」
「そうだな。あいつらなら問題だが、跡部に見られても別に問題ない」
そういうお前達の発言が問題じゃねぇのか?…跡部は頭を抱えたくなる。…と言うか、もう良いのか?今の今までリョーマと会わないと逃げていたクセに…色々と突っ込みたいことが走馬燈のように跡部の頭を過ぎったが、はっきり言って疲労の方が強い。さっさっとバカップルとは別れた方が身の為だ。
「…俺様は邪魔のようだしな。帰るぜ」
「えー、まだいいじゃん。いてよ」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故