【テニプリ】Marking
「跡部がいてくれないと困る」
二人に同時に引き止められ、跡部は眉を寄せた。
「久しぶりの逢瀬に俺は邪魔だろ?」
「全然。むしろ居てくれなきゃ困る」
リョーマに言われ、跡部は怪訝そうに眉を更に寄せた。
「…何でだよ?」
「…このまま、なし崩しにしちゃいそうだから」
「ハァ?」
呆れる意外の選択肢があるだろうか?…いや、ない。…ようするに、自分がいなくなり、二人きりになると絶対、致してしまうから、行くなと自分は引き止められているらしい。
「…んなの、俺様の知ったことかよ!」
本気で付き合い切れない。…そう思ったのは一体、これで何度目か…。振り回されるのは御免だと跡部は踵を返すと速足でドアへと向かう。その跡部のコートの裾をはしりっとリョーマは掴んだ。
「っ?、離せ!」
掴まれた跡部はつんのめって立ち止まった。
「ヤだッ!」
「ヤだじゃねぇ、帰るってんだろーが!」
「帰らないでよ。折角、久しぶりに三人揃ったし、一緒にご飯食べようよ?ね、国光さん、いいでしょ?」
「…そうだな。俺は構わないぞ。腹が減ったしな」
…きゅうっと鳴ったのは誰の腹か…。手塚の言葉に時計を見やれば、19時を過ぎている。跡部は溜息を吐いた。
「…食ったら、帰るからな」
昨夜見たときには空っぽだった冷蔵庫は手塚が買ってきたらしい食材が詰まっていた。簡単に出来そうなメニューを考え、野菜炒めでいいか…と、跡部は材料を取り出し、冷蔵庫のドアを閉めた。
(…ってゆーか、主婦染みてきてないか?…俺…)
もう溜息も出ない。
「越前、手伝え」
「うぃース」
手塚を使うより、リョーマの方が要領を得ていて使いやすい。手塚に任すと時間がやたらとかかる。跡部は炊飯器のスイッチをセットし、野菜を切るようリョーマに指示をだす。一体、何だって、自分はこんなことをしてるんだろうかと跡部は思い溜息を吐いた。
(…手塚に冗談でも電話なんかするんじゃなかったぜ)
ほんのちょっと揶揄うつもりだったのに、この有様で。どうして、俺様が他人様のキッチンで野菜炒めを作らなければならないのだろう。そう思いながら、跡部は具材を刻み、サラダ油を敷くとフライパンへと投げ込んだ。
…30分後、三人は食卓についた。
「…すまなかった。俺の誤解でリョーマにも跡部にも迷惑を掛けた」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故