【テニプリ】Marking
腹も膨れ、リョーマが食器を洗い、片づけ終え席に着いたのを見計らい手塚が茶を入れる。一服して、人心地着いたのか、手塚が口を開いた。
「気にしてないよ。久しぶりに会える口実になったし」
「…こっちはいい迷惑だったぜ。…っーか、手塚、あんなマーキング残すくらいなら、見えるところにしとけよな」
「……っ、うるさいっ」
羞恥に顔を赤くする手塚に跡部はニヤリと笑みを浮かべた。リョーマとの絡みを見られても平然としているクセに、手塚は変なところで恥ずかしがる。
「…じゃ、俺様は帰るぜ。明日、朝一で叩き起こしに来てやるから、越前の目立つところにマーキングしとけよ」
「っ、跡部ッ!」
顔を真っ赤に怒鳴る手塚に跡部はいつものように口端を上げるように笑んで、立ち上がると、コートと車の鍵を掴み帰ってしまった。それを眉を寄せて見送り、はっと我に返って、手塚はリョーマを見やった。
跡部がいなくなり、リョーマとふたりきりになってしまった。今までは跡部が居たお陰で普通に振舞えていたのに、急にどうしたらいいのか解らなくなる。
「…あ」
俄かに狼狽した手塚にリョーマは微かに笑うと、テーブルに置かれた手に手を重ねた。
「…帰ってくる飛行機の中で、国光さんのことばっかり、考えてたよ…」
「……呆れただろう。自分が付けたなんて思いもしないで…短慮であんなことを言って…」
「…最初は訳が解らなくて、腹が立ったけど、…勘違いだったし。…先も言ったけど、国光さんが嫉妬してくれたんだって解って嬉しかったよ」
リョーマは自分を責めない。手塚は唇を噛んだ。もう心の中で抑えきれない感情が溢れ出しそうになっている。いっそ、この場で吐き出してしまおう。呆れたりなんか、リョーマはしないはずだ。
「……不安なんだ」
手塚は視線を伏せて、リョーマの手のひらに包まれた左手をぎゅうと握った。
「…オレは国光さん、今何してるのかなぁって、意外におっちょこちょいだから、怪我なんかしてないかなぁって心配になったりするけど、不安はないよ。…信じてるから」
「…リョーマ」
顔を上げた手塚にリョーマは優しい顔で手塚の頬を撫でた。
「好きだから。…十年、国光さんだけ見てきた。オレの中に国光さん以外の誰かがなんて入る余地なんてない。今からもその先もオレの隣にいて欲しいのは、あなた以外の誰かなんて考えられない。考えたこともないよ」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故