【テニプリ】Marking
リョーマの手塚を見つめる黒く澄んだ瞳はいつになく穏やかで優しい。我儘で生意気だった子どもはいつの間にこんな目をするようになったのだろう…手塚はリョーマを見つめた。
「オレ、まだあの場所でやらなきゃいけないことがあるから、国光さんが不安な時、一緒にいてあげられない。…でも、オレ自身はいつでもあなたのそばにいる。オレはあなただけのものだよ」
その言葉に涙が滑り落ちる。昔はどんなに辛いことがあったって泣けなかったのに、簡単に緩む涙腺が憎い。今更、取り繕っても、もうリョーマに涙を見せてしまった。そして、リョーマは俺のものだと言ってくれた。それだけ充分だ。頬を撫でる指先に手塚は瞼を落とす。睫毛に溜まる雫をリョーマの柔らかい唇が掬った。
「…リョーマ、」
「うん」
「…お前とこれからもと一緒にいたい」
「うん」
「…大学を卒業したら、お前のところに来てもいいか?」
「勿論!歓迎するよ」
「…有難う」
やっと微笑んだ手塚をリョーマはぎゅうっと抱き寄せた。
翌朝…。
午前5時、けたたましく来客を知らせるインターホンが鳴った。その音に手塚は眉をきつく寄せ起き上がる。隣で眠るリョーマは眉を寄せただけで爆睡している。仕方無しに不機嫌そのものの顔で手塚はドアに向かう。こんな時間に訪問してくる非常識な知り合いはひとりしかいない。
「よう!昨夜は楽しんだか、アァーン?」
ドアを開けば、無駄にテンションの高い跡部がニヤニヤした顔で立っている。手塚は開いたドアを閉める。
「…ッ、手塚ァッ、閉めんじゃねぇ!」
ガッと足を滑り込ませ、跡部はドアが閉まるのを阻止すると、手塚を睨む。睨まれた手塚は溜息を吐くと、ノブを掴む手を離した。
「…朝ぱらから、何の用だ。跡部?」
「アーン?、越前、迎えに来てやったんだろ。有り難く思え」
手塚を押し退け、跡部は上がり込み、寝起きの手塚を見やった。
「…顔色、昨日に比べると良くなったな」
「…お蔭様で。まだ、眠いがな」
欠伸を噛み殺し、手塚はキッチンに向かうとコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
「越前は?」
「まだ寝てる」
「昨夜、頑張り過ぎたのかよ?」
「何をだ?」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故