【テニプリ】Marking
まだ食うのかよ?…育ち盛りは過ぎたはずだが、リョーマの食欲は旺盛だ。跡部は箸を置くと、湯飲みを手に取った。
「…後、15分したら出るぞ。先に車に行ってるぜ」
たまに飲む緑茶も悪くない。また暫くの間、逢瀬を重ねることの出来ないふたりを気遣い跡部はコートと車のキーを持って立ち上がった。
「…気、使わなくてもいいのに」
「跡部はそういう奴だ」
「…ま、跡部さんのそういうとこ嫌いじゃないけどね」
「…あぁ。そうだな」
肩を竦めたリョーマに手塚は微笑を返す。跡部が与えてくれた僅かな時間。二人は穏やかに見つめあいながら、箸を進めた。
「忘れ物はないか?」
玄関先、靴を履いたリョーマに手塚は声をかける。一時の別れと解っていても、離れがたく思う。ぎゅうっとジャケットの裾を掴む手塚にリョーマは目を細める。
「…あるかな」
「何だ?」
顔を上げて尋ねる手塚の額にリョーマは唇を軽く押し当てた。
「リョーマッ」
頬を染め、額を押さえた手塚にリョーマはにっこりと笑んだ。
「行ってらっしゃいのキスがまだだよ」
「…バカ」
悪態を返して、手塚はリョーマの肩を引き寄せる。唇に触れるだけの名残惜しいキスをして、首筋に唇を押し当て、痕を残すと手塚は顔を上げ、リョーマを見つめた。
「行ってきます」
「…行ってこい」
「うん。オレはいつだって、国光さんのものだから。心配しないで」
「…ッ。解ってる。俺はリョーマのものたがらな。…お前を信じてる」
「…ん。ありがと」
口下手で自分の心を言葉にするのが苦手だった手塚がいつから、こんなに素直に言葉を口に出来るようになったのだろう。リョーマははにかむと、最後にぎゅうっと手塚を抱き締めた。
「…おう。別れの挨拶は済んだのかよ?」
助手席に乗り込んできたリョーマに軽口を叩いて、跡部は弄っていた携帯を閉じると後部座席に放り投げ、リョーマを見やった。
「まぁね。…でも、今回、帰って来て良かったよ」
誤解の所為でヤキモキしたけれど、返ってそれが良かったのかもしれない。手塚は言葉でなかなか言ってくれないから、ときどき、本当に自分を好きでいてくれてるのか…かなり、不安になる。でも、手塚は「お前を信じてる」と言ってくれたそれだけでも、帰ってきた価値はあったと思う。
「…顔、ニヤケてんぞ」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故