【テニプリ】Marking
「いきなり、『もう電話してくるな。お前とはもう会わない』って言われて、電話切られた」
「…それは、随分いきなりだな」
乾は眉を寄せた。
「…オレ、何にもしてないはずだけど、国光さんに嫌われるようなコト、したかなぁ…?」
急にしゅんとしょげ返ったリョーマを乾は見やる。いつもは自信家なリョーマも手塚が絡むと、手塚の腰に引っ付いて、口説き落とそうと必死だったお子様だったときに戻ってしまう。
「…うーん」
考え込むように眉を寄せたリョーマに乾も最近のリョーマの行動を振り返る。
(トーナメント中は試合に集中してたし、真面目にトレーニングも熟していたが…。ファンに絡まれたりしたが、体よく追い払ってたしな…手塚があんなことを言い出すようなことは何もなかったと思うが…)
リョーマは手塚には誠実だ。女(或は男)といるところなど見たことがない。リョーマの隣に並ぶことが出来る女性がいるとするならば、母親か姉がわりの従姉妹ぐらいだろう。この十年間、ずっとリョーマと手塚を見てきたのだ。二人の絆が安易に切れる程、柔ではない。でなければ諦めなかっただろう。だから、手塚が一方的に別れを切り出すのは余程のことだ。
「…ふむ。日本でゴシップでも出たんじゃないか?」
考えられる可能性はそれしかない。しかし、 手塚に操立てしているリョーマにはゴシップ要素などどこを探っても出てくるはずがないのだが…。
「…跡部さんに電話してみる」
リョーマはもともと良くない目付きを更に険悪にして、携帯のボタンを押した。跡部とは中学からの知り合いで手塚の幼馴染だ。お節介な性分故か公私に渡って、世話を焼いてもらっている。その電話相手とは2コール鳴って、繋がった。
「…オレだけど」
『アン、越前か。思ってたより電話してくんの早かったじゃねぇか』
電話越しにも解るどこか、跡部の愉快そうな揶揄うような口調にリョーマの眉が寄った。
「どういう意味?」
『手塚から聞いたんだろ、背中の情痕の話』
「情痕?!」
リョーマは素っ頓狂な声を上げ、目を見開いた。
『何だ、聞いてねぇのかよ。…しかし、お前ら、全豪オープン決勝戦前だったっていうのに、余裕だよな。正直、呆れたぜ。お前の背中のアレ、完璧なマーキングと威嚇だぜ。手塚もやるじゃねぇの。もう、女、寄って来ないんじゃね?』
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故