【テニプリ】Marking
「…食べたように見えるか?」
弱っているくせにそれでも、憎まれ口を叩く余裕はあるらしい。跡部は肩を竦めた。
「取り敢えず、水飲めよ。脱水症状寸前じゃねぇか」
唇はカサカサと乾き、潤いはない。手塚の躰を起こし壁に凭れさせると、跡部は来る前に購入して来たスポーツドリンクのペットボトルの蓋を開け、乾いた唇に宛った。こくこくと手塚の喉が小さく動くの見やり、跡部は溜息を吐いた。その溜息に手塚は眉を寄せた。
「…ったく、越前に言われて来てやったが、手間掛けさせんじゃねぇよ」
愚痴めいた悪態がつい、口を吐く。跡部の発した『越前』の名前に手塚の目の色が変わる。
「…俺の前でその名前を二度と口にするな」
嫌悪と激しい怒りの滲んませた声に跡部はまた溜息を吐いた。
(…越前の背中のアレ、自分がやったって言う自覚はゼロかよι)
溜息しか出てこない。それに手塚は不愉快そうに目を眇めた。
「…俺はもう大丈夫だ。帰れ」
リョーマに言われたから来たと言う事実がムカつき、手塚の視線は険悪そのもの。しかし、その視線に慣れ切っている跡部は手塚を無視し、キッチンに入った。
「リゾットでいいな?、っーか、ちょっと腹に何か入れて落ち着け」
跡部の何か解り切ったような態度にムッとしたものの、要らぬ世話を焼いてくれる跡部の存在が今は有り難い。ひとりでいると気も狂いそうな程、強い感情に振り回されて、自分ではなくなりそうだ。手塚は跡部の背中を見やった。
「…リゾットより、お粥がいい」
「あ?、文句言うじゃねぇ、レトルトのリゾットしか買って来てねぇんだよ。大体、粥もリゾットも似たようなもんだろうが、アァン?」
「味が違う」
「うるせー!黙って食え」
ボイルしただけのリゾットを適当な皿が見つからず、丼に入れ、無造作にスプーンを突っ込んで差し出す。手塚は無言で跡部を見やった。
「他に器が見当たらなかったんだよ。腹に入れば、一緒だろーが」
「…そうだな…」
手塚は二日ぶりになる食べ物を口に運んだ。ごねて食べないと言ったら無理矢理にでも食わせてやろうと思っていた跡部はそれをほっとしたように見やった。そして、再び、キッチンに立ち、お湯を沸かす。丼が空になった頃を見計らい、跡部が茶を差し出すと、人心地着いたのか、手塚の顔に赤みがさした。
「…落ち着いたか?」
「…あぁ」
手塚は息を吐くと、跡部を見やった。
「…それで?」
作品名:【テニプリ】Marking 作家名:冬故