Million Kisses
「わかって欲しいなら言葉を惜しむべきじゃないだろ。」
口説き文句ばかり並べられても。
目を逸らせて
「恥ずかしくて言えない…。」
「はぁ?」
耳をうたがった。今更恥ずかしいことなんかあるのか?
おまけにばつの悪そうな顔なんかされると…。
冗談ではなさそうだが余計理解できない。混乱する。
余程途方にくれた顔してたのか手を延ばしてほほに触れてくる。
「そんな顔していると子供の頃と変わらないな。寝ているときもそうだった。」
寂しそうな顔をして言う。
「そんなに子供だったかな?」
戦争の終結を望んで只目の前の敵を倒し生き抜くことだけ考えてた。中心にいるものを倒せば終わると思っていた。
終わった後のことなど考えなかった。全力を出さなければ死んでいただろう。
他に選択肢は無かったし過去は変えられない。
「子供だった時に引きずり込めばよかったんだが。わたしにもそんな余裕がなかった。」
「あんな状況で無理だろ。」
「連れて来てしまえば幾らでも手はあった。」
「そんな仮定の話をしても。大体おれジオン兵にかなり恨まれてたし。殺されてたんじゃないかな。」
あのどさくさじゃ捕虜だのなんだの言っても無駄だろう。
「それはどうにでもできた。」
「そう?でもどこにいてもモルモットに変わりないだろ。やる事そんなに変わらないと思うけど。」
ある意味ジオンの方が徹底してたらしい。詳しくは調べてないが。
「連邦と一緒にするな。」
「ある程度データが揃ってたジオンのほうが扱いよかったかもしれないけど。今更そんな話しても仕方ないだろ。」
楽しい話題ではない。
「今になって度々後悔している。どうにかして連れて行けば良かったと。」
その場合どうなってたか見当もつかないがこんなに執着されなかったかもしれないな。
それも良いか…。NTに見切りをつけていればもう少し平和だったかもしれないし。とか考えてると
「そうしたら他の男に手など出させなかったんだが…。」
「は?」
今何言いやがった…。耳を疑うというのを始めて実感した。
呆れて二の句がつけない。じっと見てると。
「そんなに呆れることかね。」と言われる。
「まー…。うーん…。」
初めてじゃなかったのがそんなに嫌だったのか…。基本潔癖症だからなあ。
そんな事言われてもあんなの単なる暴力。不可抗力だぞ。
「それが気に食わないと言われてもこっちも好きでやったわけじゃないし。」
思い出したくも無い。頭が痛くなってきてこめかみを押える。
「きみに怒っているわけじゃない。ただ無性に腹が立つ。」
「なんに対して?おれに対してか?」
「いや…。わたしの大事なものを汚したやつらが許せない。」
汚されたねぇ…。
「済んだことだ。」
「アムロ!」
「傷つかなかったとは言わないが終わったことをどうこ言っても仕方ないだろ。」
「きみを傷つけたこと事態が我慢できない。」
「人の悪意と言うより既に人扱いされなかった事に疲れ果てたけど。ある意味諦めて慣れたのも確かだ。
全て克服したかと言われるとまあぼちぼちってとこ。」
あんな連中と同列になりたくないと言うかああまでされると開き直るというか…。そうじゃないと生きていけない。
まあ考えるのが面倒になったとも言えるが。
「前向きなのか投げ遣りなのか分からないな…。」
前向きだったり投げ遣りだったりだな。
「正直考えたくないな…。あなたのほうこそ忘れさせてやるとか言いそうなものなのに。」
「実行していたつもりだが…。」
「そうなんだ?」
「きみは自分で気がついて無いだろうが時々虚ろな目になる。」
「それは…最中に?」
「そうだ。」
「えーと…。単に飛んでるからじゃなくて?」
「目が違う。」
やってる最中の自分なんか見たくもないが…。うーん。
「それは…。なんと言えばいいのか…。」
「他の男のことなど上書きしてしまえば済む。」
「まあ…。もともと良く覚えてないし…。」
「それでも時々あんな目をされるとやり切れない…。」
やるせないと目が訴える。やる気を無くすのも無理ないのか?
「何と言うか…。あなたが傷つくこと無いだろうに…。」そんな事になるかなとはちょっと思ったけど…。
「今のおれにはどうでもいい事なんだけど。そんなに気になるのか?」
「ああ…。」
「そっか…。」
言うべき言葉が浮かばなくてお茶を飲む。女じゃなくて良かったかとは思ったけど…。
好きな相手があんな目にあったんじゃ殺したくなる。それと同じことなんだろうな…。
ふと引っかかった…。
「もしかして…。何か余計なもの見た?」
映像が在るとか言う話は耳にした事在るけど…本当にあつたのか?
「あんなものは偽者だ…。」
「…あなたマゾ?」
「そうかもな…。」
「悪趣味な…。」
「すまんな…。」
頭痛い…。まあおれに触れたくないと言うのならそれでも良いんだけど…。
そうじゃないんだろうな。眼を瞑って額を押えてると腕に触れてくる。
「アムロ。」
眉を顰めてみると
「そんな呆れたような顔されると傷つくぞ。」
「呆れてるんじゃなくて頭痛いんだよ…。」
思い出したくも無いことを思い出しそうで…。考えても仕方ないんだけど。
こういうときは考えるより行動したほうが良い。
そう。この頭痛さえなければ…。やばいな…。
「薬飲んで少し休む。」
痛み止めを飲んでソファに横になると
「ベッドで休まなくて良いのか?」
「日の当たる所に居たいから。」
本当は芝生の上で転がりたい。何か持って来てかけてくれたと思ったら強引に膝枕をしてくれる。
「…硬いよ。」
「暖かいだろ。」
「うん。」髪や肩に軽く触れてゆく。
「寒そうだぞ。」
「うん。」
ゆっくり髪を撫でられると強張りが解けて体が温かくなって薬が効いてきたようで眠くなる。
「大丈夫か?」
「う・ん…。」
スーツと寝てしまって目が覚めると頭痛は治まってるし寝不足は解消、枕はクッションに代わってた。
時計を探すとお昼頃。ボーつと起き上がる。水が飲みたくてキッチンに向かう。食事の用意がしてあってシャアはいない。
どこに行ったかな?寝室を覗いてもいない。
書斎を覗くと難しい顔して書類を見てる。休みなのに。
人には仕事持って帰るなとか言いながら何見てるんだろ?
「食事したの?」
「ああ。」
「お茶いる?」
「ああ。」
お茶を出して食事しにキッチンに戻ろうとすると
「何処へ行く。」
「ご飯食べに。」
手にしてた書類を伏せて
「食べさせてあげよう。」
「は?」
何言うかな?と思ってると腕をとってキッチンに向かう。
「ちょっと…。」
無言で引きずられる。
「おいってば。」
痛いぞ。そのまま強引に椅子に座らされる。
「何怒ってるんだ。」
応えずに食事を温めなおす。
「折角入れたお茶に口もつけずになんだよ…。」
「二人で飲みたかったんだが。」
と食事を置いて隣に座る。本気で食べさせるつもりか…。じっとお皿を見ていると
「顔洗ってきたらどうだ。」
と言われる。
「あー、うん。」
よだれでもついてるかな?鏡を見ると寝癖がついてる。色々怒らせてるようだから好きにさせるしかないか…。
気を落ち着かせて席にもどると人の顔をじっと見る。
作品名:Million Kisses 作家名:ぼの