銀の弾丸などはない
――その日から、エドワードはロイの密偵となり、密使となり、地方の情勢をつぶさに知らせたり要人の護衛を勤めたり、犯罪の現場を押さえたり犯人逮捕に協力したりと八面六臂の活躍を見せている。…ただし、秘密裏に。実際に彼の活躍が表に出ることは、ほとんどなくなってしまった。勿論それはそうなるように手を回しているからでもあるのだけれど。
逮捕した人間が連行された後、結局、ロイはエドワードが破壊してくれたホテルのレストランにいた。支配人に頭を下げるロイの横で、決まり悪げな態度で、それでもエドワードも何か思うところがあったのか、「修理させてください」と口にした。
けれど支配人は笑って鷹揚に首を振り、何とも粋なことにこんなことを口にしたのである。
「火事と喧嘩は街の華でございます、お客様」
思わず顔を見合わせたロイとエドワードに、銀髪に白い髭も様になった、執事然とした支配人は澄ました調子で答える。
「当館は壁でお客様をお迎えしているわけではございません。わたくしども従業員のひとりひとりがお客様をお迎えする屋根であり、壁であるのです。ですからどうぞお気になさいませんよう」
「かっこよかったなー、あのじいちゃん」
ホテルからの帰途、頭の後ろで手を組みながらエドワードが口にすれば、ロイが苦笑まじりにたしなめる。
「それはそうだが、君はもっと反省してくれ」
「なんだよ、しょうがねえじゃん、それはさ」
「しょうがないってね君…もう少し、もうちょっとでいいから、物を壊さないように出来ないのかね…」
溜息をついたロイに、エドワードは足を止めた。
「なんだね」
その様子にロイも足を止める。
「……」
「な、なんだね、…なにもそんなに怒るほどのことは…」
エドワードが黙り込んでしまったので、いささか怯んで問いかけたロイに、暫しの間を置いて返ってきたのは。
「…腹減った。そういや突入前に飯食うとこだったんだ…」
気が抜けてしまうようなエドワードの告白だった。