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銀の弾丸などはない

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 仲間という単語にエドワードは目を丸くした。はたしていつ自分にはそんなものが、という思いがあった。あったが、縛られ連れてこられたブレダを見たら納得せざるを得ない。なるほど確かに仲間だと。
「大将…、」
 人質を盾に依頼を受け入れることを迫るオリバーに、エドワードの怒りは音をたてて増していくようにさえ見えた。他人から見ても。
「姑息なことしやがって」
 エドワードは吐き捨てるように口にした。拘束を受け入れたからと言って、心は屈したりしない。
「人の気持ちは移ろいやすいものだ。…色よいお返事を待っていますよ」
 オリバーはにこりと笑うと、部下に目配せして応接室を出ていく。
「お気持ちがかわりましたら、その者にお伝えを」
「変わるわけねぇ!」
 思いきり否定したエドワードに、オリバーはそれ以上何も言わなかった。ただ、笑っただけで。
 オリバーが出て行ってしまうと、手首を拘束されたエドワードとブレダ、それからオリバーの部下であるらしい男三人が応接の住人になった。
 単なる拘束ならエドワードにとって何の枷にもならなかっただろう。だが、それは「単なる枷」ではなかったのだ。さすがに相手はエドワードを知っていると見えて、無理やりに外せば爆破するという仕掛けだ。ブレダのものも同様。はったりだろうと笑えばオリバーはただ穏和に、ではどうぞ試してみてください、と答えた。ただしその場合、今この病院にいる入院患者百名以上が巻き添えになることを忘れずに、と付け加えて。
 そうなっては外すことなどできなかった。信じているかどうかでいえばあまり信じていないのだが、もし万が一本当だった時のリスクが大きすぎて。
 エドワードは苛立ちを押えながらどっかと床に座り込んだ。練成しようにも、手首を押えられているせいで両手が使えないのだ。ブレダもまたエドワードに倣って座りこむ。しかし彼には、エドワードよりは余裕があった。なぜなら、彼の同行者はまだ捕まっていないことを知っていたので。
 ロイのさぼり癖もたまには役に立つ、などど妙なことを考えながら、ブレダは頭の中でこの部屋が存在する場所の見取り図を想像する。窓から見える景色から、この部屋が院内の随分と奥まった場所にあることは想像がついた。
 さて、ロイはどのあたりをのんきにぶらついているものか…。いや、もしかしたら、エドワードを探しているのかもしれないが。
 ブレダはちらりと、怒り心頭なのだろう、黙りこんでこそいるがこめかみがひきつって微妙に朱が上った頬を盗み見た。
「大将。…今日は雨は降ってねえから、たぶん大丈夫」
「……は、」
 エドワードは弾かれたようにブレダを振り向いて、一瞬まじまじと見つめた。その金色の瞳にたじろいだブレダだが、それまでの怒りも忘れたようにふっと緩んだ青年の表情に目を奪われる。もとから顔立ちの整った子供ではあったが、大人になることで随分と研ぎ澄まされた印象だ。こんなにも鮮やかな姿をしていたのだろうか、とブレダは瞬きしてしまった。
 だが、エドワードはブレダの困惑になど気づかぬ様子で、機嫌よげに笑みを閃かせた。
「確かに、今日なら無能の汚名返上だな」


 ロイが検査ルートから外れたことは想像できたオリバーの部下たちだが、まさか庭で猫を助けたり、そのまま看護婦に口止めをしたりしているとは思いもよらない。すぐにも捕まえられるはずが、さんざん後手に回らされ焦りを感じ始めていた。
 しかし焦りは物事を成功させる上で最も警戒すべきものであろう。
「…誰をお探しかな?」
 ちょうど中庭のあたりで、入院病棟の壁を曲がったところだった。オリバーの部下の一人は、不意に背中を取られ、振り向くより早く腕をひねり上げられ悲鳴を上げる羽目になった。そうして耳に飛び込んできたのは、探していたはずの男の声だ。
「あちこちで聞いて回ってくれていたので、警戒しやすかった」
 穏和にさえ聞こえる声とは裏腹に、男はともすれば殺気のようなぎらついた気配を惜しげもなく放っていた。これはもう、相手にならない。男はがくがくと震えながら、どうにか頷いた。救国の英雄なんて呼ばれていても、中身はそんなに大したこともないだろうと思っていた。若い、童顔の優男だからと。だが、その判断こそが間違いだったのだと今にして思う。今さら、遅いのだが。 
「…私の部下は、どこにいるのかな?」
 ゆったりと尋ねる声色は脅迫などとは程遠い。だがそれでも、男は、正直に答える以外の選択肢など思いつかなかった。


 応接室には動きはなかった。誰も何も言わないし、身じろぎ一つしなかった。しかし、ふと三人の男を見ていたエドワードは気付いた。どうもひとりに見覚えがある気がする。
「…あんたらの誰か、オレと前に会ってるか」
 ぽつりとエドワードは口にした。もとから退屈に耐えられないような所があるので。ここに本でもあれば話は違うのだろうが。
「……」
 三人がぴくりと反応した。特にひとり、エドワードが見覚えがあるように感じたひとりの動きは大きかった。
「…………」
 じろりと青年を睨みつける態度はとても友好的とは言えないもので、むしろ憎々しげでさえある。しかし日々方々で破壊活動に余念がないエドワードには、恨まれていない覚えの方がはっきりいって少なくて(それだけ言うとなんてやくざな、と弟には嘆かれた上説教されること間違いなしだ)、いつどこで、なんて限定はできなかった。ただ、なんとなく最近見たような気がするな、程度である。
「…貴様に殴られたせいで二人はまだベッドの上だ、あばらが折れて」
 ついに絞り出すように訴えられた声に、エドワードはぱちぱちと瞬きしたあと、首を傾げた。
「あれー、おかしいな…オレたいてい手加減するのにな…」
「そういう問題じゃないだろ大将…」
 ブレダがさすがにため息をついた。昔から腕の立つ少年ではあったが、まさかそこまで破壊神に育っているとは思いもよらなかった。まったく、最強の人間兵器は伊達ではない。
「あ。わかった。あんたら図書館にいたんだろ」
 不意に思い当った顔でエドワードが言えば、男のこめかみがひきつった。当たりらしい。
「だってお前、ガキをいいおっさんらが囲んでんだもん、そりゃあ手加減なんかできっかって話だよな」
 うんうん、とひとりで納得しているエドワードに、男はものすごく殴りたそうな顔をする。しかしぶるぶると震える拳を懸命に抑えているようなのは、やはり、それだけオリバーが彼らにとって侵すべからざる絶対の主だからなのだろう。
「しかしアバラおっちゃったのか、カルシウム足りてないんじゃねーの? 病院でちゃんと診てもらった方がいいんじゃね?」
「…っ!」
 とうとう彼の中でオリバーへの忠誠をエドワードへの怒りが振り切ったらしい。彼は大股に床に座り込むエドワードに近づくと、その胸倉をつかみ上げた。
 しかしエドワードは落ち着いたものである。にやりと笑うと、殴るの? と聞いたのである。
「まあ、ほんとか嘘か知らねえけど、これ、無理に外すとドカーンていくんだろ? 殴っちゃったりして取れたりしないかねぇ」
作品名:銀の弾丸などはない 作家名:スサ