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銀の弾丸などはない

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「おにいちゃん!」
 ノックをして病室へと入れば、ぴょこん、と椅子を降りた小さな少女がうれしげにかけてきた。それを、膝をかがめて受け止めてやってから、エドワードは目を細めて笑う。
「なんだ、元気いいじゃんか」
「うん!」
 ルーシーは影のない顔で笑い、そのおさげも元気よく揺れた。
「こら、ルーシー」
「おじいちゃん、」
「あんまり駆けるでないよ、」
 エドワードはベッドの上、つまりは病室の主を見た。真っ白な頭をした温厚そうな老人がそこにはいて、なるほどこれがルーシーの祖父かと思いながら軽く頭を下げる。そうすれば相手も目礼を返してくれた。まだ足には包帯があるが、それでも顔色は悪くなく、全体として快方に向かっていることを教えてくれていた。

 やがて花瓶に花を活けて帰ってきたルーシーの祖母にもあいさつし、少し込み入った話があるからと彼女にはルーシーを連れて外してもらった。そうしてエドワードが話し始めたのはオリバーの一件である。
「…サラは、…娘は生まれつき体が弱くて、わたしらも、もし相手があれでなかったら、もとから長く生きられまいと言われていた娘だ、結婚だってなんだって、反対はしなかったんですが…」
 言いよどんだ老人に、エドワードは黙って瞬きした。イエスともノーともいえたことではなかった。
「…サラはファビー先生という女医さんの所に小さい頃預かってもらってましてね。どうやらそれが縁であの男と知り合ったらしいんだが、…なんというんですか、どうにもわたしらには、信用ができなくて」
「…何か理由でも?」
 尋ねれば老人はさみしげに笑い、首を振った。
「特にはないんですよ、それが。だがね、何かが違うと思った。それだけです」
 親の勘、とでもいうべきものなのだろうかとエドワードは何となく考えた。それもまた違うのかもしれない。エドワードには言えない何かがあるのかもしれない。
「…あの本は?」
 オリバーが逮捕されたのを機に、ロイが先に老人の所へ赴き、例の本は既に回収されていた。オリバーの他に誰があれを狙っているか、その素性を知っているかはわからなかったが、危険の素には違いないからと、正式に話をして引き取られている。今は中央司令部はマスタング准将のデスクに厳重に保管されているはずだ。
「…あるときね、なぜかファビー先生が来て、わしらに預けて行かれたんですよ。自分はもう長くない、この本をどうか預かってはもらえないか、と」
「…悪い魔法、とルーシーは言っていましたが…」
 エドワードは気になっていたことを聞いた。
 ロイは例の本を回収した後、エドワードにもその内容を教えてくれていないのだ。
 老人は瞬きしたあと小さく笑い、ああ、あれは、と首をひねる。
「そうでもいわないと、ルーシーには怖がってもらえませんから」
「………は?」
 エドワードは素直に眉をひそめた。なんだろうかそれは。
「…亡くなった娘は、理解しているようでした。ファビー先生と同じように、これは世の中に出てはいけないものだから、と言っていましたね。…わたしらは、ファビー先生と娘の遺言を守っただけです」
 誰にも渡してくれるなと言った彼女達の願いを汲んだのだという答えに、エドワードはそれ以上聞くことはできなかった。後はどうやら、ロイに聞くしかないらしい。
「そうですか…、…すいません。ありがとうございました」
 エドワードは苦笑してたちあがり、軽く会釈をして部屋を出る支度をする。
「ルーシーにもよろしく伝えてください」
「もう行かれるので? …いや。あらためて、ありがとうございました。ルーシーを助けてくれて」
「いえ。当然のことです。…お大事に」
 礼儀正しい青年の風情で頭を下げると、エドワードはたちあがり、今度こそ病室を後にした。



 その足でそのまま中央司令部を訪ねれば、ロイは缶詰中だと教えてもらった。
「…入るぞ准将!」
 ドアを開きながら宣言すれば、デスクの向こう、ロイがゆっくりと顔をあげた。なるほど机上には書類が山積みだ。
「…おや鋼の」
 ロイは何事なかったかのような顔で気安く口にした。エドワードはといえば、つかつかと歩いて行ってデスクの前、仁王立ちになる。
「おや、じゃねえ。…あの本、いったい何が書いてあったんだよ」
 単刀直入すぎる切り出しにロイは瞬きをした。そして、ふ、と苦笑する。
「君の思っていた通りでもあるし、だが同時に違うともいえる」
「どういうことだよ」
「あれは個人的な日記だった」
「……日記?」
 エドワードは当然眉をひそめた。なんだそれは。
「あちこちに錬金術の理論が散見するが、女性らしい日々の覚書なんかも含まれていた。…そして、書いていたのはひとりではなかった」
 ロイの含みのある言い方にエドワードは素直に首を傾げた。そんな青年に小さく笑いかけて、ロイは引き出しを開けた。そうして、ルーシーが抱えていた革張りの立派な本を取り出す。
 …だがしかし、確かにその本にはタイトルが入っていなかった。表紙にも、背表紙にも。ロイはそれをひらりと振って示してから、再び引出しにしまってしまった。
「あっ、…なんでしまうんだよ」
「女性のプライバシーは守るべきだろう?」
 ロイは澄ました顔で言いきった。かっこつけてんじゃねーや、とエドワードは口をとがらせる。しかしロイがそんなことでこたえるわけがなかった。
「…読みたいかい?」
 目を細めて、組んだ手の上に顎を乗せ、ロイは楽しげにそう問いかけてきた。そんなの決まってんだろ、とふてくされるエドワードに、それならひとつ条件がある、とロイが続ける。
「条件?」
 眉をひそめたエドワードに、そう、条件、とロイは頷く。
「その腕と足を、いい加減元に戻してはくれないか」
「――――」
 エドワードは全く予想もしていなかったことに、目を見開いて言葉を失った。ロイの表情もまた真面目なものになる。
「戻せないわけではないんだろう?」
「……、…あんたにそんなの、関係ないじゃんか」
「戻せるんだろう?」
 エドワードは眉をひそめ、あー、と歯切れ悪く目をそらす。ロイはとうとう立ち上がり、エドワードの隣まで回って、有無を言わさずその手を取り上げた。驚きに目を瞠るエドワードに、ロイは言い募る。
「君には君の考えがあるんだろう。そんなことはわかってる。…だが、君がもし君のために戻せないんだというなら、君の決意なんだというなら、…私が願う。私のために、君の手足を生身に戻してはくれないか」
「……あんたのため?」
 それは想像もつかない言葉だった。第一、なぜロイがそこまで願ってくれるのかもわからない。
 …いや、願望としてならわからなくもなかった。エドワードの願望としてなら。だがロイにそれにつきあう義理はないはずだ。彼が、エドワードを特別視してさえいなければ。だがそれこそエドワードの願望ではないのだろうか。
 エドワードの混乱も葛藤も置き去りにして、ロイは真剣な顔で続けた。
「…私の胸が痛いんだ。君のその手足を見ていると」
「…。別に、あんたが気に病むことなんて、なにも…」
 ロイは首を振った。
作品名:銀の弾丸などはない 作家名:スサ